【ギャグ日本昔話】あさっての党、殴り込み御免!
わたしはチ~サ。しがないただの娘でございます。
何の因果か、ここ幕末と明治の境、文明開化の煙がもうもうと立ち込める東京の片隅で、「にっぽんぽん・あさっての党」なる摩訶不思議な集団の一員として、日々を過ごしているのでございます。
ある日の昼下がり、いつものように薄暗い長屋の一室で、党の会合が開かれておりました。
「ええか! これからのワシらの党はなぁ、政策で勝負じゃ! 政策で!」
パイプユニッシュさんが、詰まり気味の声で息巻いております。福井訛りのせいか、どこか悲壮感が漂うのが常でございます。
「党勢拡大は間違いない!」
そう言って彼は、懐からトランプを取り出し、バッと床に撒き散らしました。彼の言う「トランプ政権とのパイプ」とは、どうやらこの紙のことのようでございます。
「今日はその話ですか?」
ジム総長が首を傾げます。彼女はいつも、話の核心を絶妙に外す天才でございます。
「そういえば昨日、アタシ見たわ! パイプユニッシュさんが天狗と話してるの! こうなること何となく予測してたわ。特には驚かなかったわね」
もちろん、そんな事実はありません。彼女の発言は、天気予報よりもあてにならないのでございます。
そんな中、わが「にっぽんぽん・あさっての党」の代表は、部屋の隅で算盤を弾きながら、にちゃにちゃと笑っておりました。
「ええゆうてるんちゃうで。党勢が拡大したら、その分、銭も増えるんや。恋すれば何でもない距離やけど、銭が絡むと地球の裏側より遠いんやで」
代表がうっとりしていると、どこからともなく猿が一匹、障子を突き破って現れました。ま猿🐒でございます。
「イッシ~市議が入党するって話はデマだキー! あいつは人を殴って捕まったことがあるキー!」
そう叫ぶと、「デコバカ!」という謎の罵声を残し、電光石火の速さで去っていきました。
彼の発言は全てデマ、というのがこの党の定説でございます。つまり…
「え、じゃあ本当に入党するんですか…?」
わたしが恐る恐る尋ねると、代表は算盤を放り出し、高らかに笑いました。
「おう! あのイッシ~市議がワシらの仲間になるんや! これで舐めた口きく奴らも黙るやろ! SFやで!」
そう言って、そばにあった空のペットボトルをわたしに向かって投げつけました。恋する距離ではなかったようです。
わたしは思わず身をすくめました。
人を殴って逮捕された方と、一つ屋根の下で活動するなんて…。
「代表の英断! さすがです!」
カレーの本質🍛さんが、瞳を潤ませながら叫びます。
「暴力はいけませんが、代表が認めた方ならば、それはもはや暴力ではないのです! 新しい対話の形なのです!」
彼の代表への忠誠心は、時に物理法則さえも捻じ曲げるのでございます。
その時、またしても勢いよく障子が開きました。ピライさんです。
「うるさい! 静かにしろ!」
彼はそれだけ言うと、嵐のように去っていきました。あの人は一体、何がしたいのでしょうか。
数日後、イッシ~市議の歓迎会が盛大に(長屋の一室で)催されることになりました。
イッシ~市議ご本人は、想像していたよりも物静かな方でございました。ただ、その拳は異様なほどに固く、分厚く、まるで岩のようでした。
「イッシ~さん、歓迎しますわ! アタシ、あなたが百人斬りを成し遂げたって噂、聞きましたわ! 見た! アタシそれ見た!」
ジム総長が、またしてもありもしない記憶を語ります。
「いや、拙者はトランプ政権とのパイプが…」
パイプユニッシュさんが割って入ろうとしますが、誰も聞いておりません。
宴もたけなわ、代表が上機嫌で立ち上がりました。
「ええか、おどれら! イッシ~市議が入ったからには、わが党は向かうところ敵なしや! ちょっとでもワシを野次ってみい、どうなるか分かっとるやろな!」
その言葉に、部屋の隅で黙々とカレーを食べていた男が、ふと顔を上げました。
「代表、そのカレー、少し辛すぎませんか?」
刹那、時が止まりました。
代表はゆっくりと男の方を振り返ります。
「…なんやて?」
「いえ、だからカレーが…」
「ワシのカレーにケチつけよったな! 野次や! これは野次や!」
代表は叫ぶや否や、テーブルの上のペットボトルを掴み、男に向かって投げつけました!
「代表をお守りしろ!」
カレーの本質🍛さんが、男に飛びかかります!
「うるさい! 静かにしろ!」
ピライさんが現れ、怒鳴って去っていきます!
「デコバカ! カレーに福神漬けを入れないのが悪いキー!」
ま猿🐒も現れ、デマを飛ばして去っていきます!
「党勢拡大は間違いない! これが新しい政策じゃ!」
パイプユニッシュさんは、訳が分からないままトランプを撒き散らしております!
「見た! アタシそれ見た! 今の投げ方、柳生新陰流の奥義よ! こうなること何となく予測してたわ!」
ジム総長は興奮気味に嘘を重ねます!
そして、主役であるはずのイッシ~市議は、この大乱闘に巻き込まれ、誰かがこぼしたカレーに足を滑らせて派手に転び、頭を打って気絶してしまいました。
わたしは、部屋の隅で小さくなって、ただただこの地獄絵図を眺めておりました。
恐怖で震えていたはずなのに、いつの間にか、その震えは止まっていました。
あまりにも馬鹿馬鹿しい光景に、恐怖という感情がどこかへ吹き飛んでしまったのです。
めちゃくちゃになった部屋の中、ひっくり返ったお膳と、飛び散ったカレーと、気絶したイッシ~市議と、そして相も変わらず奇声を上げ続ける党の仲間たち。
(…もう、どうでもいいや)
不思議と、心が凪いでいくのを感じました。
臆病で、いつもおどおどしていたわたしの中で、何かがぷつりと切れ、そして、何かが生まれたような気がいたしました。
これが、わたしたち「にっぽんぽん・あさっての党」の日常。
そして、わたしたちが作ろうとしている日本の「あさって」の姿なのでございましょうか。
わたしはそっと立ち上がり、散らばったトランプを一枚拾い上げました。
そこに描かれていたのは、笑う道化師の姿でございました。
その時でございます。
「御用改めである! 騒々しいのは貴様らか!」
長屋の入り口が蹴破られ、浅葱色の羽織をまとった、見るからに真面目そうな侍の一団が雪崩れ込んできたのです。
江戸の治安を守る「まとも組」でございました。
「てめぇら、新興政党を名乗って狼藉の限りを尽くしているそうだな! 神妙にお縄につけい!」
中心に立つ、ひときわ眉間の皺が深い男、組長の近藤まとも殿が、刀の柄に手をかけながら言い放ちました。
しかし、わが「あさっての党」の面々は、新たな敵の登場にも動じる様子がございません。
「なんや、新しい支持者か? ちょうどええ、寄付金は一人一両やで!」
代表はすかさず懐に手を入れていないか確認しております。
「あら、サプライズゲスト? 知ってたわ! 今日はそういう流れだって、アタシ予測してたもの!」
ジム総長は「まとも組」の登場すら、自分の手柄にしようとしております。
「待たれい! まずは政策で議論するのが筋じゃろう!」
パイプユニッシュさんが叫び、懐からトランプをバッと投げつけました。数枚が近藤まとも殿の顔に張り付きます。
「代表に近づくなぁ!」
カレーの本質🍛さんは、残ったカレー鍋を盾のように構え、臨戦態勢に入ります。
「うるさい! 静かにしろ!」
「デコバカ! 侍のちょんまげは時代遅れキー!」
ピライさんとま猿🐒が、いつものように一言だけ叫んで去っていくものですから、「まとも組」の隊士たちは完全に混乱しております。
「な、なんなのだこやつらは…話が全く通じぬ…」
近藤まとも殿が、顔に張り付いたトランプを剥がしながら呻きました。
「ええい、問答無用! 代表は貴様か! 天誅!」
ついに堪忍袋の緒が切れたのでしょう、近藤まとも殿が代表に斬りかかろうとした、その刹那でございます。
わたしは、すぅっと息を吸い、二人の間に歩み出ておりました。
自分でも、なぜそんな行動に出たのか分かりません。
わたしは、先ほど拾った道化師のトランプを、近藤まとも殿の目の前に、静かに差し出しました。
そして、ぽつりと呟いたのです。
「…おやめくださいまし。この方々は…悪人ではございません。ただの…ただの、阿呆なのでございます」
しん、と長屋が静まり返りました。
わたしの、か細く、しかし全てを諦観したような声が、不思議と全員の耳に届いたのでございます。
沈黙を破ったのは、代表でした。
「そ、そうや! ワシらはただの阿呆なんや! 阿呆を斬るんは武士の恥やで! 恋すれば何でもない距離やけど、阿呆と武士の間には銀河ほどの距離があるんや!」
それを皮切りに、党の面々が、なぜか「阿呆」であることを誇らしげに主張し始めました。
「そうよ! アタシが阿呆なのは生まれつき! こうなること何となく予測してたわ! 特には驚かなかったわね!」
ジム総長が胸を張ります。
「代表の深遠なる阿呆っぷりを理解できぬとは、貴殿もまだまだですな!」
カレーの本質🍛さんが、なぜか勝ち誇ったように言います。
「政策が阿呆で何が悪い! 党勢拡大は間違いないんじゃ!」
パイプユニッシュさんも、トランプを握りしめて力説しております。
「まとも組」の面々は、そのあまりの光景に、開いた口が塞がりません。
刀を振り上げたまま固まっていた近藤まとも殿は、毒気を抜かれたように呟きました。
「…阿呆…だと…? 我らが取り締まるべきは、世を乱す悪であって、手の施しようのない阿呆ではない…のか…? 阿呆とは何か…正義とは何か…」
彼は、深く哲学的な問いの海に沈んでしまったようでございます。
その時でした。
「ん……ここは…?」
今まで気絶していたイッシ~市議が、むっくりと体を起こしました。
そして、寝ぼけ眼のまま、目の前で哲学に耽っていた近藤まとも殿の横っ面を、その岩のような拳で思い切り殴りつけてしまったのです。
「えいっ!」
ゴッ!という鈍い音と共に、近藤まとも殿は白目を剥いてその場に崩れ落ちました。
「あ、組長ぉぉぉ!」
「だ、だめだ! こいつらには何を言っても無駄だ! 我々の手に負える相手ではない!」
「退却! 退却だーっ!」
組長を失った「まとも組」は、蜘蛛の子を散らすように逃げていきました。
嵐が去った後、長屋には、気絶したままの近藤まとも殿と、相も変わらずのカオスがただよっておりました。
代表が、ぽん、とわたしの肩を叩きました。
「チ~サ、お前、なかなかやるやないか。今日からお前は『にっぽんぽん・あさっての党・阿呆筆頭』や! SFやで!」
代表はそう言うと、褒美とばかりに空のペットボトルを優しく手渡してくれました。
わたしは、その軽すぎるペットボトルを握りしめ、もう何も言う気力もなく、ただ遠い目をして、破れた天井から見える空を見上げました。
わたしの人生、一体、どっちの方向へ向かっているのでしょうか…。
ただ一つ確かなのは、この党にいる限り、「あさって」が「まとも」な日で来ることは決してないだろう、ということでございました。
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