あさって党枕騒動之顛末
時は文明開化の音がようやく聞こえ始めた頃。瓦斯灯の灯りもまだ心もとない帝都東京の片隅に、我らが「にっぽんぽん・あさっての党」の根城はございました。ええ、ただの古びた長屋でございます。
わたくし、チ~サと申します。この、明日どころか明後日の方向を向いて全力疾走しているような党で、お茶汲みなどをしております。臆病なわたしには、毎日が生き地獄でございます。
その日も、長屋の一室ではいつもの騒動が繰り広げられておりました。議題は、パイプユニッシュ様の誕生祝いについてでございます。
「ええか、皆の者!パイプユニッシュの誕生祝いや。ここはワシの顔を立てて、盛大にやらなあかんで!」
関西弁でがなり立てるのは、我らが代表。お金と票の匂いがする方へ光の速さで駆け寄る、実に卑怯、いえ、機を見るに敏な御方でございます。今日も今日とて、意味もなく空の徳利を床に転がしておりました。
「今日はその話ですか?でしたらアタシに良い考えがありますわ」
すっと手を挙げたのは、美しくもどこかネジの外れたジム総長。彼女の言う「良い考え」は、たいていの場合、常人の理解を超えた斜め上の発想でございます。
「見た!アタシそれ見た!異国の王族が誕生日に巨大な饅頭を贈り合っているのを!我々もやりましょう!」
見たはずがありません。彼女の言うことは九割九分、その場の思いつきなのでございます。
そんな中、静かに、しかし異様なまでの情熱を目に宿した一人の男がスッと立ち上がりました。カレーの本質🍛様でございます。彼は代表への忠誠心だけで生きているような方で、その忠誠心は時折、狂気の域に達します。
「代表のお考え、そしてジム総長のご慧眼、恐れ入ります。しかし、この度の誕生祝い、ボクに一つ、考えがございます」
カレーの本質🍛様は、恭しく風呂敷包みを差し出しました。受け取ったのは、本日の主役、パイプユニッシュ様でございます。
「おお、カレーの本質殿。かたじけないのう」
福井なまりの穏やかな口調。しかし、その実、彼はトランプという異国の大統領と太いパイプで繋がっていると豪語してはばからない、大変に偉そうな方なのでございます。(もっとも、そのパイプは固く詰まって久しいと専らの噂ですが…)
パイプユニッシュ様が包みを開けると、中から現れたのは、なんとも立派な枕でございました。
「これは…枕かの?」
「はい。『いびき対策枕』にございます。これで昼の論戦の疲れを夜に癒し、心置きなく熟睡なされば、先生の二十四時間はより完璧なものとなりましょうぞ!」
カレーの本質🍛様の朗々とした声が響き渡った瞬間、長屋の空気は氷点下にまで下がりました。
皆様、ご存知でしょうか。パイプユニッシュ様は、大事な寄り合いの最中に舟を漕ぐことにかけては、右に出る者のいない御方なのでございます。これは…あまりにも痛烈な当てつけではございませんか。
わなわなと震えるパイプユニッシュ様。その顔はみるみるうちに赤く染まってまいります。
「カレーの本質殿…。これは、どういう意味じゃ…?拙者が日中、務めを疎かにしているとでも言いたいのか!?政策で勝負じゃ!」
怒号が響き渡ります。まずい、まずいことになりました…!
「まあまあ、パイプユニッシュはん。これはお主の首がしっかり据わるっちゅう祝いの品や。恋すれば何でもない距離やけど、党内の不和は命取りやで」
代表がニヤニヤしながら火に油を注ぎます。ああ、面白がっているだけです、この御方は!
「こうなること何となく予測してたわ。特には驚かなかったわね」
ジム総長が一人、澄まし顔で嘘を重ねます。予測できるはずがございません。
「違う!断じて違う!これはパイプユニッシュ先生の健康を心から願っての、ボクの真心!それを疑うとは何事か!」
カレーの本質🍛様が、鬼の形相でエクストリーム擁護を開始しました。もう、誰にも止められません。
その時でございます。
「うるさい!静かにしろ!」
今まで黙っていたピライ様が突然立ち上がり、そう一喝するなり、嵐のように部屋から出て行ってしまいました。
さらに、天井裏から一匹の猿が顔を出し、
「その枕は幕府の密偵が仕込んだ寝返り促進装置だキー!デコバカ!」
と叫ぶやいなや、姿を消しました。ま猿🐒様…その発言は全てデマなのでございます…。
もう、めちゃくちゃでございます。怒号と擁護とデマが飛び交い、代表はケラケラ笑いながらお銚子を投げております。ああ、この党は今日、終わるのかもしれない…。
その時、わたくしの中で、何かがぷつりと切れました。
気がつくと、わたくしはその枕をひったくり、皆の中央に立っておりました。
「み、皆様!お静まりくださいまし!」
か細い、けれど芯の通った声が出ました。自分でも驚いております。
「こ、この枕は…!この枕は、皆が一つになり、党勢拡大を願う、まことの心が詰まった枕にございます!昼も夜も党のことを考えよという、我ら全員へのメッセージなのでございます!」
わたくしは、震える手で枕を高々と掲げました。自分で言っていて、意味が分かりません。けれど、もうどうにでもなれ、という気持ちでございました。
すると、どうでしょう。パイプユニッシュ様は怒りを収め、ふむ、と深く頷かれました。
「そうか…。チ~サの言う通りやもしれん。党勢拡大は間違いない!うむ、気に入った!これがあれば、昼の寄り合いでも心置きなく熟睡できるというものじゃ!」
え?
「ええゆうてるんちゃうで!それワシのへそくり隠すのに丁度ええと思ってたんや!」
「見た!アタシそれ見た!その枕で将軍になれるって夢で見たわ!」
「おお、分かってくださった!さすがはパイプユニッシュ先生!」
皆が、それぞれの解釈で一斉に納得し始めたのでございます。
わたくしは、呆然と立ち尽くすしかありませんでした。
わたくしの、生まれて初めての勇気ある行動は、結果として、偉い人の居眠りを公認し、この党のカオスをさらに加速させただけに終わったのでございます。
ああ、この党、あさってどころか、今日の晩にでも無くなっているかもしれません…。わたくしの成長の方向性も、きっと明後日の方向なのでございましょう。とほほ…。
わたくしの苦し紛れの言い訳が、まさかあのような形で受け入れられるとは…。パイプユニッシュ様は「いびき対策枕」をいたくお気に召し、片時も手放さなくなりました。それどころか、帝都を揺るがす大議論が交わされるお奉行所での寄り合いにまで、その枕を持参なされるようになったのでございます。
そして、案の定、パイプユニッシュ様は、重鎮たちが眉間に皺を寄せて国事を論じているその真っ最中に、高らかないびきを轟かせて眠りこけてしまわれたのです。
ああ、万事休す。打ち首獄門は免れませぬ…!わたくしが長屋でガタガタと震えておりますと、信じられない報せが舞い込んでまいりました。
パイプユニッシュ様の居眠り姿が、「泰然自若。喧々囂々の議論をよそに、一人瞑想に耽り、国家百年の計を案じておられる」と、瓦版で大絶賛されたというのです!
「あさって党に眠れる獅子あり!」
誰が言い出したのか、そんな見出しが帝都の空を舞い、我らが「にっぽんぽん・あさっての党」の評判は、うなぎ登りに天を突き抜けました。
「これや!SFやで!チ~サ、お前の言う通り党勢拡大やないか!」
代表は目を血走らせ、そろばんを弾き始めました。「開運!眠れる獅子枕」なる商品を売り出し、一儲けしようという魂胆なのでございます。まったく、卑怯、いえ、商魂たくましいにも程がございます。
「こうなること何となく予測してたわ。アタシの言った通り、この枕で天下が取れるのよ!」
ジム総長は、さも自分の手柄のように胸を張ります。予測できるはずもないのに、その嘘はもはや芸術の域に達しておりました。
「おお…!代表のお役に立てた!ボクの贈った枕が、我が党の礎となるとは!ああ、なんという幸せ!」
カレーの本質🍛様は、感極まって男泣きに泣きながら、代表の足元にひれ伏しております。
そんな狂乱の宴に、冷や水を浴びせる出来事が起こりました。幕府の重鎮中の重鎮、大目付様が、直々に我らが長屋へお成りになったのでございます。
「パイプユニッシュ殿にお目通り願いたい。その瞑想法の極意、とくとご教授願いたく参上つかまつった」
終わりました。何もかも。
パイプユニッシュ様に極意などあるはずがございません。ただ気持ちよく寝ておられただけなのですから。
「ど、どないすんねん…!こうなったら金目のもん持って逃げるで!」
「今日はその話ですか?アタシは見てない!何も見てないわ!」
「政策で勝負じゃ!と言いたいところじゃが、今日はちと分が悪い…」
党の幹部たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ腰です。ああ、やはりこの党は…と、わたくしが絶望に膝を折ろうとした、その時でございます。
ふと、あの枕が目に映りました。全ての元凶であり、そして幸運の源でもある、あの枕が。
わたくしは、すっくと立ち上がりました。もう、臆病でお茶を淹れているだけのチ~サではございません。
「大目付様、お待ちくださいまし」
凛とした自分の声に、皆が驚いてこちらを見ます。わたくしはゆっくりと大目付様の前に進み出て、深く、深くお辞儀をいたしました。
「パイプユニッシュ先生は今、天啓を得るための深い瞑想に入っておられますゆえ、お声がけはご無用にございます」
大目付様が怪訝な顔をなさいました。わたくしは、覚悟を決めて、世にも壮大な大ボラを放ったのでございます。
「先生が実践されておられるのは、古来より我が党に伝わる秘伝の政策、『無為の治(むいのち)』にございますれば」
「む、無為の治…?」
「はい。あえて何もしない。動かない。眠ることによって精神を研ぎ澄まし、森羅万象の声を聞く。さすれば、策を弄せずとも天下は自ずと治まるのでございます。これぞ、究極の政(まつりごと)にございます」
我ながら、何を言っているのか分かりません。けれど、もう止まりません。
「そして、その境地に至るために必要不可欠なのが、この『天啓の枕』!俗世の雑音を遮断し、天の声を聞くための神器なのでございます!」
わたくしが枕を高々と掲げた、その瞬間でした。
「うるさい!静かにしろ!」
ピライ様がどこからともなく現れ、大目付様を一喝して去っていきました。
「その大目付は隣国の間者だキー!デコバカ!」
天井裏からま猿🐒様がデマを飛ばし、姿を消しました。
絶体絶命のカオス。しかし、大目付様は、わなわなと震えながら、感極まったように叫ばれました。
「な、なるほど…!無為の治!あえて何もしないことで天下を治める…!そして、常人には理解できぬ奇行とも思える言動で、我々の度量を試しておられたのか!深い!あまりにも深淵じゃ!『あさっての党』、恐るべし!」
えええええええ!?
こうして、我らが党は幕府から一目置かれる謎の政治集団となり、パイプユニッシュ様の居眠りは「無為の治の実践」として公に認められ、彼は「眠れる賢者」と崇められることになったのでございます。
全てが終わった後、代表がニヤニヤしながら、わたくしに近づいてまいりました。
「チ~サ、お前、なかなかやるやないか。恋すれば何でもない距離やけど、ワシとの心の距離は縮まったで。褒美にこれをやろう!」
代表は、そう言って空になったお銚子をひょいと投げてまいりました。
わたくしは、それを華麗に片手で受け止め、にっこりと微笑んでみせました。
「代表、ありがたく頂戴いたします。ですが、次のお褒美は、お給金でお願いできますでしょうか?」
一瞬、時が止まりました。そして、代表は腹を抱えて笑い出したのです。
「がっはっは!SFやで!おもろい!ほんまにおもろい女やで、お前は!」
わたくしの人生が、この日、少しだけ変わった気がいたします。このカオスな党の未来は、相も変わらず明後日の方向を向いておりますが、それもまた、一興かもしれませぬ。
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