2025-10-24

新党・あさっての党と心斎橋の乱

『新党・あさっての党と心斎橋の乱』

むかしむかし、あるところに。
とは申しましても、世は幕末から明治に移ろうとする激動の時代。異国の黒船が江戸の度肝を抜き、尊皇だ佐幕だと騒がしい東京での、とあるお話でございます。

わたしはチ~サ。しがない一党員にございます。
わたしが所属しておりますのは、その名も「新党・あさっての党」。明日をも知れぬこのご時世に、あさってを見据えるとは、何と壮大な志でありましょうか。
……と、聞こえは良いのですが、実態はただの変わり者の集まりなのでございます。

その日も、我らが党の代表が、江戸の町辻で声を張り上げておりました。

「ええか、みなさん!今、日の本は大変なことになっとるんやで!大阪なんかね、もうほんまに異国に占領されました!」

出ました、代表の大風呂敷。
わたしは後ろの方で、ただただ小さくなっているのでございます。

代表は、関西弁でまくし立てます。一人称は「ワシ」。お金が大好きで、ちょっと(いえ、かなり)卑怯者。そして、すぐペットボトルを投げてきます。この時代にどうやって手に入れているのかは、誰も知りません。

「大阪のね、ミナミいうとこは、今やほとんど唐の者に占領されました!心斎橋を歩いてみぃ!10人のうち9人以上が外国人、ほとんどが唐人ですよ!このままでは、キタも、いや江戸も乗っ取られてまう!」

わたしは思わず首をかしげました。
(……心斎橋に外国の方が多い話、今のこのご時世でされても、かなり的外れなのでは……?)
開国したばかりで、異人さんが珍しいのは当たり前。それに、心斎橋という地名も、江戸に住むわたしには馴染みがございません。

しかし、わたしは臆病でおとなしい身。とてもじゃないですが、代表に物申すことなどできません。

すると、わたしの隣にいたジム総長が、パッと手を叩いて言いました。
「見た!アタシそれ見た!心斎橋が占領されるところ!」

ジム総長。一人称は「アタシ」。とてつもない天然ボケで、息をするように嘘をつきます。絶対に見ていません。そもそも心斎橋がどこにあるかもご存じないはず。

「いやぁ、すごかったわよぉ。唐の人たちがワァーッて来てね。こうなること何となく予測してたわ。特には驚かなかったわね」
「そうでっしゃろ!」
代表はご満悦です。

そこへ、福井弁の男、パイプユニッシュ様が割って入りました。
「代表!これは由々しき事態じゃ!拙者のワシントンとのパイプで、トランプ政権に伝えねば!」

パイプユニッシュ様。一人称は「拙者」。口ではトランプ政権と太いパイプがあると豪語しておりますが、そのパイプはひどく詰まっていると専らの噂。

「党勢拡大は間違いない!政策で勝負じゃ!」
そう言って、空に向かって何かを叫んでいますが、誰にも届いていないご様子。

「その通りです!代表のおっしゃる通りなのです!」
突如、代表の前にひれ伏したのは、カレーの本質🍛様。一人称は「ボク」。代表を命がけでエクストリーム擁護するのが彼の生きがいでございます。
「代表の深いお考えこそが、この国を救う唯一の道!それは、スパイスの効いたカレーの本質と同じなのです!」
もはや何を言っているのか分かりません。

わいわい、がやがや。
収拾がつかなくなったその時でございます。

「うるさい!静かにしろ!」

鋭い声が響き渡り、一瞬、その場が静まり返りました。
見れば、そこに立っていたのはピライ様。彼はいつもこうして現れ、一喝しては風のように去っていくのでございます。

嵐が去ったと思ったのも束の間、今度は近くの木の枝がガサガサと揺れました。
「ウキーッ!デコバカ!」
一匹のお猿さんが、そう叫ぶなり、あっという間に走り去ってしまいました。
ま猿🐒様でございます。彼の発言は全てデマだと言われていますが、真偽のほどは定かではございません。

「やかましいわ!」
代表はそう怒鳴ると、懐からおもむろにペットボトルを取り出し、猿が消えた方角へ投げつけました。空になったペットボトルが、カラン、と寂しい音を立てます。

「ええか!この異国人との距離!恋すれば何でもない距離やけど、ワシにとってはSFやで!」
代表の口癖が止まりません。

「今日はその話ですか?」
ジム総長が、またもや天然な一言を放ちます。
もう、わたしは限界でございました。
この人たちの会話は、いつだって噛み合わない。まるで、歯車の狂った絡繰(からくり)人形を見ているようでございます。

でも……でも、このままではいけない。
この的外れな演説を、江戸の町民が信じてしまったら?
わたしは、震えるこぶしをギュッと握りしめました。

「あ……あの……」

わたしが発した声は、蚊の鳴くような、か細いものでした。
しかし、喧騒の中、それは意外にも皆の耳に届いたのでございます。
代表も、ジム総長も、パイプユニッシュ様も、カレーの本質🍛様も、全員がわたしの方を振り返りました。

「……なんや、チ~サ。文句あんのか?」
代表の低い声が、わたしの心をえぐります。

ああ、怖い。今すぐ逃げ出したい。
でも、ここで言わなければ、わたしは一生、このおかしな人たちの言いなりになってしまう。

わたしは、人生で一番の勇気を振り絞りました。

「だ、代表っ!その、心斎橋のお話……本当にござりまするか!?わ、わたし、この前、浪速の商人から文(ふみ)をもらいましたけど、そのような話は、ついぞ聞いたことがないと……!」

しん、と静まり返る町辻。

代表の顔が、みるみるうちに赤黒く染まっていくのが分かりました。

「なんやとぉ……!ワシの話が信じられへんっちゅうんか!ええゆうてるんちゃうで!!」

代表は、新たに懐から取り出したペットボトルを、わたしに向かって投げつけようと振りかぶりました。
わたしは、ギュッと目をつむりました。

しかし、いつまで経っても衝撃は来ません。
おそるおそる目を開けると、信じられない光景が広がっておりました。

代表が投げたペットボトルが、放物線を描き、偶然通りかかったお奉行様の行列の、ちょうどお奉行様ご本人の御頭(おつむ)に、こーん、と当たったのでございます。

「「「…………」」」

全員が固まりました。

「……者ども、であえ!であえーっ!」

お奉行様の一声で、わたしたち「新党・あさっての党」の面々は、一人残らずお縄になってしまいました。

牢屋の中で、わたしは冷たい壁に背を預けながら、ぼんやりと考えておりました。
言いたいことを口にするのは、とても勇気がいること。
でも、ほんの少しだけ、胸がスッとしたのも本当。
わたし、ちょっとだけ、成長できたのかもしれない。

……まあ、言う相手と場所とタイミングは、選ばないといけないみたいですけど。

隣の牢では、ジム総長が「こうなること何となく予測してたわ」と呟き、パイプユニッシュ様が「これで党勢拡大は間違いない!」と力強く宣言しておりました。
カレーの本質🍛様は、どこからか白湯を調達してきて、代表に「ささ、代表、お心を鎮めて」と差し出しています。

「まったく……SFやで」

代表の呟きが、薄暗い牢屋に、虚しく響いておりました。

めでたし、めでたし……なのでしょうか。
わたし達の明日は、どっちだ。いや、あさっては。

薄暗い牢屋の中、わたし達「新党・あさっての党」の面々は、世を儚んで……などいるはずもございませんでした。

「これは幕府の陰謀や!ワシを恐れるあまり、こんな卑劣な手を使いよってからに!」
代表は、鉄格子の向こうの看守に向かって、なおもペットボトルを投げつける仕草を繰り返しております。もちろん、取り上げられております故、素振りだけでございますが。

「アタシ、牢屋に入るの初めてじゃないのよ」
ジム総長が、さも武勇伝のように語り始めました。
「昔、西洋の城の地下牢に幽閉されたことがあってね。その時も、こうなること何となく予測してたわ」
……絶対に嘘でございます。西洋に行ったことなどないはず。

「心配ご無用!拙者のワシントンとのパイプを通じて、既にトランプ政権には連絡済みじゃ!今頃、黒船の大艦隊が江戸湾に向かっておるわ!」
パイプユニッシュ様は、鉄格子をガシャガシャと揺らしながら叫びます。そのパイプは、政治ではなく、牢屋の汚水管にすら繋がっておりません。

「代表!この鉄格子こそが、我々の結束をより強固にするためのスパイスなのです!この苦難を乗り越えてこそ、真のカレー……いえ、真の政党が生まれるのです!」
カレーの本質🍛様は、涙ながらに代表をエクストリーム擁護しております。

わたしは、この絶望的な状況と、誰一人として反省の色が見えない仲間たちを前に、深いため息をつきました。
このままでは、打ち首獄門……。わたしは、まだ死にたくありません!

「み、皆様!このままでは、我らは朝露と消えてしまいます!何とかして、ここから出なければ!」
わたしの悲痛な叫びに、皆が一瞬、こちらを向きました。

「せやな……」
代表が、腕を組んで唸ります。
「恋すれば何でもない距離やけど、打ち首台までの距離は、さすがにSFやで」

代表が何か妙案(というか珍案)を思いついたようでございます。
しかし、その計画とやらは、案の定、滅茶苦茶なものでした。

ジム総長が「アタシ、看守さんの前世を知ってるわ!あなたは確か、古代エジプトの神官で……」と嘘八百で看守を言いくるめようとして、逆に気味悪がられ。
パイプユニッシュ様が「拙者のパイプでこの錠前など一発じゃ!」と宣言し、懐から取り出したキセルを鍵穴に突っ込み、先を折ってしまい。
カレーの本質🍛様が「代表のカリスマ・オーラで鉄を溶かすのです!」と叫び、全員で代表に念を送り始める始末。

……もう、ダメだ。この人たちに任せていては、あさってどころか、明日の朝日すら拝めません。
わたしは、臆病で、おとなしくて、いつも人の後ろに隠れていたわたしは、もうここにはいない。
やらなければ。わたしが、やるしかない!

わたしは、ある一つの策を思いつきました。それは、わたしの唯一の取り柄……『存在感のなさ』を利用するものでございます。

「皆様!どうか、ありったけの力で騒いで、看守の方々の気を引いてくださいまし!」

わたしの言葉に、一同は「任せろ!」とばかりに、これまで以上の大騒ぎを始めました。
代表は「ええゆうてるんちゃうで!」と地団駄を踏み、ジム総長は見たこともないオペラを歌いだし、パイプユニッシュ様は「政策で勝負じゃ!」と叫びながら牢の中を走り回り、カレーの本質🍛様は情熱的なインド舞踊を踊り始めました。
牢屋は、たちまち混沌の坩堝と化します。

その隙に、わたしはそっと鉄格子の隅に寄り、息を殺しました。
案の定、看守の方々は、大騒ぎする代表たちを止めるのに必死で、隅っこで石のようになっているわたしになど、全く気づいておりません。

わたしは、ゆっくりと、ゆっくりと鉄格子の隙間から手を伸ばし……看守の腰にぶら下がっていた鍵束に、指先をかけました。
心臓が、口から飛び出しそうでございます。
そして、ついに鍵束をそっと抜き取ることに成功したのです!

わたしは急いで錠前を開け、仲間たちを牢から解き放ちました。

「おお!チ~サ、大手柄やないか!これもワシの采配のおかげやな!」
「アタシが注意を引いたおかげよ。こうなること予測してたわ」
「拙者のパイプが鍵を緩めておいたのじゃ!」
「代表を信じる心が奇跡を呼んだのです!」

……誰一人、わたしの手柄だとは認めてくれません。
でも、今はそれで良いのです。

わたし達は奉行所の廊下を駆け抜けましたが、出口には屈強な番人が何人も立ちはだかっておりました。
絶体絶命!
その時でございます。

「うるさい!静かにしろ!」

どこからともなくピライ様が現れ、番人たちを一喝するなり、また風のように去っていきました。
番人たちが一瞬あっけに取られている隙に、わたし達は奉行所の外へと転がり出たのでございます!

しかし、このまま逃げてもお尋ね者になるだけ。
わたしは、震える足で、お奉行様が裁きを行う白州へと向かいました。
仲間のため、そしてわたし自身のために、直談判するのでございます!

「お、お奉行様!どうか、お聞き届けくださいませ!」
わたしは、土下座して必死に訴えました。
「我らが代表は、ただの世間知らずの阿呆でございます!悪気は毛頭なく、心斎橋がどこにあるかすら、きっと分かっておりませぬ!どうか、この通り!」

お奉行様が怪訝な顔でわたしを見下ろした、その時。
後ろから、仲間たちがなだれ込んできました。

「見た!アタシ見たわ!お奉行様が昨日、甘味処の看板娘に鼻の下を伸ばしているのを!」
ジム総長の爆弾発言に、お奉行様の顔が青ざめます。

「この件、トランプ政権も重大な関心を持って注視しておるぞ!国際問題に発展しかねん!」
パイプユニッシュ様が、ありもしない虎の威を借ります。

「お奉行様!代表の深遠なるお考えを受け入れれば、あなたも真のカレー……いえ、真の裁きにたどり着けるのです!」
カレーの本質🍛様が、もはや何を言っているのか分かりません。

「ウキーッ!デコバカ!」
どこから迷い込んだのか、ま猿🐒様までが野次を飛ばして去っていきました。

あまりのカオスな状況に、お奉行様は頭を抱え、わなわなと震え始めました。

「……もうよい!もう、お主らの顔は見たくない!二度と江戸の町で騒ぎを起こすでないぞ!さっさと失せろ!」

こうして、わたし達「新党・あさっての党」は、奇跡的に無罪放免となったのでございます。

夕日が差し込む江戸の帰り道。
代表は「これも全て、ワシの人徳のなせるワザや」と胸を張っておりました。
誰も、わたしが必死に頭を下げたことなど、覚えてはおりません。

でも、それで良かったのです。
わたしは、ただ臆えていただけの、か弱い町娘ではございません。
自分の足で立ち、自分の頭で考え、仲間を救うことができた。
その事実が、夕日に照らされたわたしの心を、温かく満たしてくれました。

「ええか、みんな!ワシは決めたで!」
代表が、また何かを思いついたようです。
「次の辻説法では、上野の山が異国のパンダなる珍獣に占領される話をする!これはもはや、SFやで!」

わたしは、思わず空を見上げて、小さく笑いました。
この人たちといると、本当にろくなことがない。
でも、まあ……退屈だけは、しなさそうでございます。

「……代表、パンダというのは、唐の国の、熊に似た獣だそうですよ」

わたしがそう呟くと、代表はキョトンとした顔で、こちらを振り返りました。
臆病なだけだったわたしが、代表にツッコミを入れる日が来るなんて。

わたし達「新党・あさっての党」の明日はどっちだか分かりませんが、あさってはきっと、今日より少しだけ面白い日になる。
そんな気がしたのでございます。

めでたし、めでたし。



0 件のコメント:

コメントを投稿

😲ウソだろ!?「お昼の12時」が昔は町ごと違った!? ⏰ 湯気♨️が世界を変えた「産業革命」のヤバい話

  😲ウソだろ!?「お昼の12時」が昔は町ごと違った!? ⏰ 湯気♨️が世界を変えた「産業革命」のヤバい話 やあみんな!👋 「世界史」って聞くと、どんなイメージ? 「カタカナの名前覚えるだけでしょ😴」「昔の話、今の私に関係ないし…🥱」 なーんて、速攻でブラウザ閉じようとし...