【ギャグ日本昔話】パイプ詰まりて候
むかしむかし、と言ってもまだ侍の魂がそこかしこに残る、文明開化の音がする東京でのこと。
わたし、チ~サは「にっぽんぽん・あさっての党」なる小さな政党で、お茶くみやら何やらをしておりました。
ある晴れた日の昼下がり、わたしは長屋の一室を改造した党本部の戸を、勢いよく開け放ちました。
「パイプユニッシュ先生!大変です!メリケン国(あめりか)のトランプ様がご来日なさいました!」
部屋の奥でふんぞり返っていた、ちょんまげ姿の男がゆっくりとこちらを向きます。我が党の外交担当、パイプユニッシュ先生その人です。
「うむ。知っておるわ、チ~サ。党勢拡大は間違いない!ついに拙者の本当の力を見せる時が来たのじゃ!」
先生は福井訛りの力強い声でそう言うと、ぐいっと胸を張りました。
そう、パイプユニッシュ先生は、かのトランプ政権とそれはそれは太いパイプ(繋がり)があると豪語しておられるのです。これまで「パイプユニッシュだのソープだの」と散々ヤジられてきた汚名を晴らす、千載一遇の好機!
わたしは期待に胸を膨らませて尋ねました。
「では、本当にトランプ政権の閣僚様をニコ生特番にお呼びできるのですね!?」
「当たり前じゃ!政策で勝負じゃ!」
自信満々の先生。しかし、その時でした。障子の向こうから、ぬっと大きな影が現れたのです。
「ニコ生?ええやんええやん、儲かりまっせ!SFやで!」
関西弁のけたたましい声の主は、我が党の代表。お金が大好きな卑怯者です。代表はわたしの顔を見るなり、懐からお茶の入ったペットボトルを取り出し、ビュン!と投げつけてきました。危ない!
「ええゆうてるんちゃうで、チ~サ。すぐに蓋(有料放送)にせなあかんで!そのためにはホンマにトランプはんとこの閣僚はんを呼ばなあかん。パイプはん、いけるんやろな?」
代表の目が、銭の形にギラリと光ります。
パイプユニッシュ先生の顔が、わずかに引きつったように見えました。
「も、もちろんでござる!拙者のパイプは、太平洋よりも太いので…」
「今日はその話ですか?」
突然、涼しい声が割り込んできました。ジム総長です。彼女はいつも唐突に現れます。
「アタシそれ見た!昨日の夢でトランプがウチの党に来たがってるの見た!だから、こうなること何となく予測してたわ。特には驚かなかったわね」
ジム総長は、まったく見ていない目で遠くを見つめながら、しれっと大嘘をつきました。
「おお、さすがジム総長!代表!これは吉兆ですぞ!」
どこからともなく現れたカレーの本質🍛さんが、目を潤ませながら叫びます。
「ボクは信じておりました!代表の徳の高さが、ついにメリケン国まで届いたのです!代表こそが日本の、いや世界の宝です!」
命がけのエクストリーム擁護、今日も絶好調です。
その瞬間、部屋の空気がビリビリと震えました。
「うるさい!静かにしろ!」
ピライ先生が顔を真っ赤にして怒鳴りつけ、しかし次の瞬間にはもう姿が見えなくなっていました。嵐のようなお方です。
続いて、天井裏から猿が一匹、ものすごい勢いで飛び降りてきました。ま猿🐒です。
「ウキー!デコバカ!」
そう叫ぶなり、ま猿🐒もまた、あっという間にどこかへ走り去ってしまいました。彼の発言はすべてデマなので、きっと誰かのデコが光っていないのでしょう。
…ああ、もうめちゃくちゃだ。
混沌とする党本部。代表はなおもパイプユニッシュ先生に詰め寄ります。
「で、どうなんやパイプはん!はよ呼ばんと日が暮れてまうで!恋すれば何でもない距離やけど、ワシントンは遠いで!」
「そ、それは…その…」
明らかに狼狽し、顔面蒼白になるパイプユニッシュ先生。そのパイプ、どうやら固く詰まっているご様子。
もうダメだ…我が党の信用も、ここまでか…。
わたしが膝から崩れ落ちそうになった、その時でした。
「しゃーない!」
代表がポンと手を打ちました。
「パイプが詰まってるんなら、ワシがトランプになったらええんや!」
「「「えええええええっ!?」」」
わたしとカレーの本質🍛さんの声がハモりました。
「SFやで!金髪のかつらと赤いネクタイがあれば、ワシがトランプや!これならすぐにニコ生できるやろ!」
代表はガハハと笑うと、どこからか取り出した金色のカツラを雑にかぶりました。似ても似つかない、偽トランプの誕生です。
パイプユニッシュ先生は、安堵からか腰を抜かしています。
ジム総長は腕を組んで、深く頷きました。
「やっぱりね。こうなること何となく予測してたわ。特には驚かなかったわね」
カレーの本質🍛さんは、滝のような涙を流しながら叫びました。
「素晴らしい!代表!代表こそが真のトランプです!ボクは、この日をどれだけ待ちわびたことか!」
こうして、その日の夜。「【緊急特番】代表・ジム総長、トランプ(?)と日米の未来を語る!」と題されたニコ生が始まりました。もちろん、開始5分で蓋(有料放送)がされました。
わたしは、安っぽいカツラをかぶって滅茶苦茶な英語を叫ぶ代表と、隣で「政策で勝負じゃ!」と虚ろに繰り返すパイプユニッシュ先生の姿を画面越しに見ながら、深く深くため息をつきました。
でも、なぜでしょう。こんな最低で、どうしようもない人たちなのに。
「明日も、この人たちのお茶を淹れるのも悪くないかもしれないな」
なんて、ほんの少しだけ思ってしまったのです。
わたしのささやかな成長なのか、それともただの諦めなのか。それは、まだ誰にも分かりません。
めでたし、めでたし……?
代表が金色のカツラをかぶって「アイ・アム・トランプ!」と叫んだ、あの地獄のニコ生特番。予想通り、翌日の瓦版(かわらばん)は我が「にっぽんぽん・あさっての党」の悪口で埋め尽くされました。
「偽物トランプ、大炎上!」
「パイプユニッシュのパイプは、ただの下水管だった!」
党本部の長屋は、かつてないほど重苦しい空気に包まれていました。
「どないしてくれんねんパイプはん!ワシがこないな恥かいたんは、全部あんたのせいや!」
代表は、立て続けに3本のペットボトルをパイプユニッシュ先生に投げつけます。もはや恋の距離ではありません。殺意の距離です。
「申し訳ないでござる…」
先生は力なくうなだれ、自慢のちょんまげもしおれています。「政策で勝負じゃ!」という口癖も、今日は聞こえてきません。
「フン。アタシはこうなること何となく予測してたわ。だから別に驚かなかったわね」
ジム総長は、なぜかドヤ顔で言い放ちます。予測していたなら、なぜ止めなかったのでしょう。
「代表は悪くありません!あのトランプは本物より素晴らしかった!時代の先を行き過ぎていただけなのです!」
カレーの本質🍛さんが涙ながらに代表をエクストリーム擁護しますが、今日のところは火に油を注いでいるだけです。
「うるさい!静かにしろ!」
「ウキー!デコバカ!」
ピライ先生とま猿🐒がいつものように怒鳴っては去っていき、後には虚しさだけが残りました。
ああ、もう終わりだわ。この党は、今日で解散するに違いない。
みんなが下を向き、誰かが「解散」の二文字を切り出すのを待っているような、そんな空気。わたしは、お茶を淹れる手も止まり、ただただ震えていました。
このままじゃ、本当に党がなくなっちゃう…。
わたしの居場所が、なくなっちゃう…。
その時でした。臆病で、いつもおどおどしていたはずのわたしの口から、自分でも信じられないような言葉が飛び出したのです。
「あ、あの…皆さん!」
しん、と静まり返る党本部。全員の視線がわたしに突き刺さります。代表も、ペットボトルを投げる手を止めてこちらを見ていました。
「わ、わたし…わたし、思うんです!」
心臓が口から飛び出しそうでした。でも、もう止まれません。
「代表が投げるペットボトルは、たまに当たりそうになって怖いです。でも、中身がお茶だから、もし当たってもベタベタしないようにっていう、代表の優しさなのだと…わたしは、思いたいです!」
「な、なんやて…?」
代表が、目を丸くしています。
「ジム総長は、いつも突拍子もない嘘をつきます。でも、その嘘はあまりにも壮大で…聞いていると、この世の嫌なことなんて、どうでもよくなってくるんです!それは、一種の救済です!」
「…そうだったのね、アタシ」
ジム総長が、何かを悟ったように深く頷きました。
わたしは、涙でぐしゃぐしゃになりながら、うなだれているパイプユニッシュ先生の前に歩み寄りました。
「パイプユニッシュ先生のパイプは、詰まっているのかもしれません!メリケン国には繋がっていないのかもしれません!」
先生の肩が、びくりと震えます。
「でも…!でも、詰まっているからこそ、いつか通った時の喜びは、きっと誰よりも大きいはずなんです!毎日毎日、詰まったパイプを磨き続ける先生の姿は、誰よりも輝いて見えます!詰まりは…詰まりは『希望』なんです!」
わたしの魂の叫びが、薄暗い長屋に響き渡りました。
静寂が、空間を支配します。
やがて、パイプユニッシュ先生が、震える手で顔を上げました。その目からは、大粒の涙が滝のように流れ落ちていました。
「チ~サ殿…!!」
先生は嗚咽しながら、わたしの手を取りました。
「拙者は…拙者は、この詰まりと共に生きていくでござる!この『希望』を、いつか世界に通してみせる!党勢拡大は、間違いない!」
力強く立ち上がった先生のちょんまげは、天を衝くように、再び誇りを取り戻していました。
「…SFやで」
ポツリと、代表が呟きました。
「なかなかおもろいやないか、チ~サ!よし、お前のその心意気や!今日の晩飯はワシのおごりや!…と言いたいとこやけど、もちろん経費で落とすで!」
代表はニカッと笑い、わたしの頭をわしわしと撫でました。それは初めて、投げつけられたのではない、代表からの温かい接触でした。
「チ~サさん!あなたもついに代表の真の偉大さに気づいたのですね!」
「アタシ、チ~サちゃんが党を救うこと、何となく予測してたわ!」
カレーの本質🍛さんとジム総長が、口々に叫びます。
こうして、解散寸前だった「にっぽんぽん・あさっての党」は、わたしのめちゃくちゃな演説によって、奇跡的に一つになったのです。
パイプは詰まったまま。代表はお金好きで卑怯なまま。ジム総長は嘘つきのまま。何も解決してなんかいない。でも、わたしたちは確かに、固い固い絆で結ばれました。
わたしは、このどうしようもない人たちの中で、自分の声を、自分の居場所を見つけたのです。
文明開化の空に浮かぶ月を見上げながら、わたしは熱いお茶を一口すすりました。
明日もきっと、ろくでもない一日が始まるのでしょう。
でも、今はそれでいい。それが、いい。
めでたし、めでたし。
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