2025-11-18

あさっての藩



【ギャグ日本昔話小説】あさっての藩

文明開化の音がする。
ここ帝都・東京では、昨日までの常識がまるで昨年の暦のように捨てられ、明日をもしれぬ期待と不安が入り混じった、奇妙な熱気が渦巻いていた。

そんな時代の片隅に、わたし、チ~サが所属する「にっぽんぽん・あさっての党」という名の小さな藩があった。いや、藩と呼ぶにはあまりに粗末で、党と呼ぶにはあまりに珍妙な、ただの寄り合い所帯だった。

「近頃、どうも風当たりが強い気がする…」

わたしは冷えた畳の上で、小さくため息をついた。
わが党にとって「アンチ」とは、自然発生的に「なるもの」ではない。厳粛なる審議の末、代表によって「認定されるもの」なのだ。

先日の選挙で大敗を喫した干場殿が、「選挙後にアンチになられた方の気持ちが『なんとなく』ですがわかりました」などと書き付けをよこしてきたが、正直、気持ちがわかりすぎてわたしのお腹は常に下り坂だった。干場殿のように「不満な事があっても歯を食いしばり試練だと思い前へと進みました」と胸を張れるほど、わたしの奥歯は頑丈にできていない。

がらり、と襖が乱暴に開け放たれた。

「おんどれら!集まりやがれ!」

藩のトップ、代表だった。今日も今日とて金の匂いだけを的確に嗅ぎつけるその鼻は、江戸っ子もかくやというほど高く、そして関西弁だった。

「ええか、これからのわが党は『富国強兵』ならぬ『富国強ワシ』や!ワシが富めば、おのずと藩も潤う!異論は認めんで!」

代表の言葉に、わたしは思わず「しかし、それでは民の心が…」と言いかけた。その瞬間、ひゅん、と風を切る音がして、わたしの頬を何かが掠めた。見ると、見たこともない硝子製の水筒…いわゆる「ぺっとぼとる」が畳に転がっている。

「恋すれば何でもない距離やけど、ワシとお前の心の距離は今、宇宙くらいあるで」

代表の目が据わっている。まずい。これは「アンチ認定」へ至る第一歩だ。

「代表!素晴らしいお考えです!まさにSFやで!」
すかさず飛んできたのは、カレーの本質🍛さんのエクストリーム擁護だった。彼は代表の言葉を一粒たりとも聞き漏らすまいと、常に命がけで耳をそばだてている。

「そうよ、こうなること何となく予測してたわ。特には驚かなかったわね」
ジム総長が、明後日の方向を見ながら言った。彼女はいつも全てを見通しているかのような顔をするが、だいたい何も見ていない。

「アタシ見た!チ~サが昨晩、密かにアンパンを食べてるの見た!」
「それは事実無根です!」
「結果としてチ~サのアンパンで利しているのは、木村屋總本店ね」
ジム総長の天然ボケは、時として真実より重い。

そこへ、やけに威勢のいい声が響いた。
「党勢拡大は間違いない!政策で勝負じゃ!」
パイプユニッシュさんだった。彼はいつも「亜米利加(あめりか)のトランプという大統領と太いパイプがある」と豪語しているが、そのパイプはひどく詰まっているともっぱらの噂だった。

「そもそも、このわたしに意見するとは何事か!」
代表の怒声に、わたしの身体は震え上がった。絶体絶命だ。わたしは今日、「アンチ」に認定され、この奇妙な共同体から追放されるのだ。

その時だった。

「うるさい!静かにしろ!」

凄まじい怒鳴り声とともにピライさんが現れ、そして次の瞬間にはもう姿を消していた。嵐のような男だった。

続けて、天井裏から猿が一匹、畳に飛び降りてきた。
「デコバカ!」
ま猿🐒だった。彼はわたしを指差してそう叫ぶと、満足したように再び天井裏へと消えていった。彼の発言は全てデマだが、デマとわかっていても傷つくものは傷つく。

「…もう、だめだ」
わたしが膝から崩れ落ちようとした、その時。

干場殿の言葉が脳裏をよぎった。
『不満な事があっても歯を食いしばり試練だと思い前へと進みました』

そうだ。わたしはここで終わるわけにはいかない。わたしには、この藩で成し遂げたいことがある。…たぶん。何かがあったはずだ。

わたしは顔を上げた。
「代表!」
声が裏返った。
「わたしは、アンチではございません!ただ、わたしは…わたしは…この藩の、財政が心配で…!」

苦し紛れに叫んだその時、代表の動きがぴたりと止まった。

「…財政?」
代表の目が、これまで見たこともないほどギラリと輝いた。金のこととなると、彼の聴力は常人の100倍になるのだ。

「…おもろいやないか。ええゆうてるんちゃうで。お前、金の匂いがわかるんか?」
「え?」
「よし、今日からお前は会計係や!一銭たりともごまかしたら、アンチ認定どころやない!SFの世界に飛ばしたるからな!」

代表は高らかに笑い、新しいぺっとぼとるの蓋を開けた。
わたしは、よくわからないままアンチ認定を免れたらしい。会計係という新しい役職まで得てしまった。

ジム総長がぽつりと言った。
「今日はその話ですか?」

違う。絶対に違う。
でも、まあ、いいか。
わたしは、この摩訶不思議な「にっぽんぽん・あさっての党」で、もう少しだけ歯を食いしばってみようと思った。わたしの成長は、きっと、あさっての方向に向かっている。




会計係に任命されてしまったわたし、チ~サ。
その日からわたしの主な仕事は、代表がそこらで拾ってくるガラクタを「資産」として帳簿につけ、どこからか湧いてくる請求書に頭を抱えることだった。

帳簿は、もはや帳簿ではなかった。それは、この世の終わりを描いた黙示録か、あるいは前衛芸術家の描いた悪夢のような何かだった。収入の欄には「代表の夢(プライスレス)」と書かれ、支出の欄は「SF(サイエンス・フィクション)への投資」で埋め尽くされている。

「あかん!このままでは藩が、党が、財政破綻してしまう…!」

わたしが一人、算盤を弾きながら畳をかきむしっていると、背後からぬっと影が差した。

「チ~サよ」
代表だった。その声はいつになく真剣で、わたしは思わず背筋を伸ばした。
「おんどれの心配、ようわかるで。金やろ。金がないんやろ」
「は、はい!その通りでございます!」
「よっしゃ!」

代表はにやりと笑い、部屋の真ん中に古びた江戸の地図を広げた。
「ええか、これより『江戸城現金強奪作戦』を決行する!」
「……は?」
わたしの耳は、ついに都合の悪いことを幻聴として処理する機能を手に入れたらしい。

「恋すれば何でもない距離やけどな、江戸城までなら走ってすぐや!あの城には幕府が溜め込んだ金銀財宝がぎょうさんあるはずや!それを元手に、わが党は生まれ変わるんや!」
代表の瞳は、本物の金塊よりもギラギラと輝いていた。これは正気じゃない。SFやで。

「代表!それこそが、それこそがこの国の本質!ボクは命をかけてお供します!」
どこからともなく現れたカレーの本質🍛さんが、感涙にむせびながら代表の足元にひれ伏した。

「こうなること何と théoriquement(テオレティクモン)、つまり理論的には予測してたわ。特には驚かなかったわね」
ジム総長が、知ったかぶりフランス語を挟みながら言った。

「政策で勝負じゃ!拙者の亜米利加(あめりか)パイプを使えば、かの国の最新兵器『ぺっぱーみんと』を導入できる!これで城の警備など赤子の手をひねるようなものじゃ!」
パイプユニッシュさんが胸を張るが、そのパイプからはホコリしか出てこない。

わたしはわなわなと震えながら叫んだ。
「だめです!そんなことをしたら、お尋ね者になってしまいます!党の存続が…!」

「うるさい!静かにしろ!」
ピライさんが襖の隙間から顔を出し、怒鳴って去っていった。

「デコバカ!」
天井からま猿🐒が木の実を落として消えた。デマだとわかっていても、なんだか自分が馬鹿なことを言っているような気分になってくる。

わたしの必死の抵抗もむなしく、作戦は満月の夜に決行されることになった。
わたしはもう、泣くしかなかった。

そして、運命の夜。
江戸城の石垣の下に、世にも珍妙な一団が集っていた。

代表は、なぜか金色の忍び装束。闇に紛れる気など微塵もない。
ジム総長は、ショッキングピンク。
パイプユニッシュさんは、星条旗をマントのようにはためかせている。
カレーの本質🍛さんに至っては、褌一丁で体にカレー粉を塗りたくっていた。

わたしは、せめてもの抵抗として、一番地味な鼠色の装束を選んだ。

「行くで、おんどれら!城のてっぺんで、夜明けを見たるんや!」
代表の号令一下、我々は城内への潜入を開始した。

しかし、計画は開始三秒で頓挫した。
代表が石垣に鼻をこすりつけ、動かなくなったのだ。
「くんくん…この石垣、金箔の味がするで…!これが埋蔵金っちゅうやつか!SFやで!」
そう言って、ぺろぺろと石を舐め始めた。

「アタシ見た!こっちに近道があるの、アタシ見た!」
ジム総長はそう豪語して皆を藪の中へと導き、五分後には全員で壮大に迷子になった。

「おかしい…トランプ政権からの援軍『えあふぉーすわん』が、この空に来るはずじゃが…!」
パイプユニッシュさんは、ただただ夜空を見上げている。

なんとかかんとか、わたしの持つ粗末な地図を頼りに、我々は天守閣の蔵へとたどり着いた。ここにお宝が…!固唾を飲んで、代表が錠前を蹴破る。

しかし、そこにあったのは、山と積まれた千両箱ではなかった。
あったのは、おびただしい数の「瓦版」だった。

『衝撃!にっぽんぽん・あさっての党、財政難か!?』
『代表、ペットボトルを投げつける奇行!』
『ジム総長の嘘、ついに暴かれる!』

全て、わが党のスキャンダル記事だった。

わたしが呆然としていると、代表は満足げに腕を組んだ。
「ええか、これが『炎上商法』っちゅうもんや!まず悪名で名を知らしめ、そこから一気に党勢を拡大するんや!」
「そ、そんな…!では、現金強奪というのは…!」
「アホか!ええゆうてるんちゃうで!これは宣伝活動や!」

その時だった。
「「「「曲者じゃーっ!!」」」」
蔵の周りを、松明を持った屈強な警備隊が完全に取り囲んでいた。

絶体絶命。
代表は最後の武器であるぺっとぼとるを投げつけるが、隊士の一人が片手で軽々とキャッチした。
「終わりや…」
誰もがそう思った瞬間、わたしは、懐に忍ばせていた「アレ」を握りしめていた。

わたしは前に進み出て、叫んだ。
「お待ちください!我々は、決して怪しい者ではございません!」
わたしは懐から、あの悪夢の帳簿を高く掲げた。

「これをご覧ください!この、赤字と嘘と夢で塗り固められた、解読不能の帳簿を!これほどの窮地にありながら、我々は、この国の『あさって』を、心の底から憂いているのでございます!」

渾身の力で投げつけた帳簿は、美しい放物線を描き、警備隊長の顔面にクリーンヒットした。

隊長は、額に帳簿をくっつけたまま、その内容を読もうと目を細めた。そして、次の瞬間、わなわなと震えだした。

「…ひどい。これは、ひどすぎる…!収入の欄に『代表の夢』…?支出に『SFへの投資』…?こんな…こんなめちゃくちゃな財政で、よくぞ…!」
隊長の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

「お前たちの憂国の情、しかと受け取った…!行け!わしは何も見なかったことにしてやろう!」
なぜか、わたしたちは見逃された。

夜明けの光が、江戸の町を照らし始める。
わたしは、臆病で、おとなしくて、いつも代表に怯えていたわたしが、この意味不明な党を救ったという事実に、自分でも混乱していた。

代表が、わたしの肩をぽんと叩いた。
「チ~サ…お前、やるやないか。恋すれば何でもない距離やけど、ワシとお前の間の信頼は、今、ゼロ距離やで」
その顔は、少しだけ誇らしそうに見えた。

ジム総長が、静かにつぶやいた。
「結果として、この作戦で利しているのは、あの瓦版屋ね」

その言葉が真実なのか、いつもの嘘なのか、もはや誰にもわからなかった。
わたしたち「にっぽんぽん・あさっての党」の、波乱に満ちた一日は終わる。
わたしの成長がどの方角へ向かっているのかは不明だが、とにかく、わたしたちの戦いは、まだ始まったばかりだった。

https://x.com/lif_agitator/status/1990646326678159844


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