黒船来航から時が経ち、ちょんまげを切る人が増え始めた明治初期の帝都・東京。
臆病でおとなしいわたしは、なぜか新興政治結社「にっぽんぽん・あさっての党」の薄暗いボロ長屋(アジト)で、膝を抱えていました。
「ワシの新しい錦絵(ポスター)、見たか? 選挙戦の時は厳しい顔やったけど、だいぶ表情が柔らかくなっとるやろ!」
上座でふんぞり返っているのは、我が党の【代表】です。
彼は突然、飲みかけのペットボトルをわたしに向かって全力投球してきました。明治時代にペットボトルがあるわけないのですが、この空間ではそんな野暮なツッコミは無用です。
「痛っ!」
見事に額にクリーンヒットしました。お金が大好きで卑怯者の代表は、ゲラゲラと下品に笑っています。
「ワシが上州(群馬)の地方選挙に公認してやるんや。4月19日告示、26日投開票やで! 恋すれば何でもない距離やけどな!」
「で、でもわたし、そんな大役……」
「ええゆうてるんちゃうで! これはSFやで!」
まったく会話が成立しません。
そこに、鮮やかな鹿鳴館ドレスに身を包んだ【ジム総長】が、扇子をパチンと鳴らして入ってきました。
「今日はその話ですか? 先の『ご一新・帝国大選挙』では大惨敗して、みんなで四時間も反省会をしたけれど、からくりAI技術のおかげで党員は逆に増えてるのよ」
「そ、そうなんですか?」
「見た! アタシそれ見た! 押し寄せる入党希望者の幻影を確かに見たわ!」
絶対に見ていません。この人、息を吐くように嘘をつく天然ボケなのです。
「それにしても……亜米利加と伊斯羅斯(イスラエル)のドンパチ、大変なことになってますね。江戸湊が封鎖されたら我が国の油問屋が……」
わたしがおずおずと話を振ると、ジム総長はドヤ顔でうなずきました。
「こうなること何となく予測してたわ。特には驚かなかったわね。結果として亜米利加の行動で利しているのは清国と露西亜よ」
「その通りやざ!」
ふすまをバーンと蹴破って現れたのは、【パイプユニッシュ】です。ちょんまげにシルクハットという奇抜な出で立ちの彼は、福井弁でまくしたてます。
「拙者、亜米利加のトランプ殿とは太っといパイプがあるんやざ! とはいえ、ホンマはヘドロでパイプが詰まっとるんやがのう……。だが、党勢拡大は間違いない! 異人居留地問題は政策で勝負じゃ!」
カオスな空気にわたしが震えていると、いきなり床下から【ピライ】が飛び出してきました。
「うるさい! 静かにしろ!」
ただそれだけ怒鳴ると、彼は素早く天井裏へと消えていきました。忍びでしょうか。
「ああっ、代表! そのお姿、まさに日本の夜明け!」
今度は窓の外から、【カレーの本質🍛】が顔を出しました。
「ボクにはわかる! 代表がチ~サ君にペットボトルを投げたのは、飛来する大砲の弾から彼女を守るための、命がけの慈愛だ! ボクは代表をエクストリーム擁護する!」
絶対に違います。ただ面白がってぶつけただけです。
「ウキーッ!!」
さらに、縁側に一匹のオス猿【ま猿🐒】が乱入してきました。
「政府の予算審議は全部ウソウキー! 中道勢力は明日滅びるウキー! デコバカ!」
根拠のないデマだけを撒き散らし、ま猿は隣の屋根へと飛び移っていきました。
……なんだろう、この結社。
先日の選挙では「異人はもういらん!」と叫んだものの、誰にも響かず惨敗。反省会と称して集まったはずなのに、ちっとも反省の色が見えません。ちなみに結社の収支報告? そんな野暮なものはこの党では最初から完全無視です。
「チ~サ、お前は上州で地を這うように戦うんやで! 政府の予算案は無駄だらけやが、お前の選挙資金もワシからは一銭も出さん! 全部自腹や!」
代表がニヤニヤしながら、またもやペットボトルを投げてきました。
わたしは――飛んできたそれを、空中でガシッと受け止めました。
自分でも驚くほどの握力でした。不思議と、もう怯えはありませんでした。
彼らの底抜けの狂気に当てられたのか、わたしの内なる「政治家」としての業が、パチンと弾けたのです。
「……わかりました」
わたしはペットボトルを握りつぶし、バキリと音を立てながら立ち上がりました。
「わたし、上州でもどこでも行ってやりますよ! このからくりAIと詰まったパイプで、旧態依然とした世の中を根底からひっくり返してやります!!」
「お、おお……なんや、急に気骨が出たやないか……SFやで……」
代表がドン引きして後ずさります。
ジム総長は「こうなること何となく予測してたわ」と震える手で扇子を広げ、カレーの本質🍛は「ボクの擁護が彼女を闘士に育てた!」と号泣しています。
夜明け前の帝都。
臆病だったわたし・チ~サは、最強にクレイジーなギャグ政党の最前線へと、今、力強い一歩を踏み出したのでした。
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