文明開化の音がするはずのこの街で、わたし、チ~サは「にっぽんぽん・あさっての党」の屯所(党本部)にて、今日も怯えながらお茶を濁……いや、淹れていた。
「ワシの誕生日ケーキ、うまそうやな!官軍からの御用金(公費)で食う舶来菓子の味は格別や!ええゆうてるんちゃうで!」
ド派手な羽織を翻しながら大声で笑うのは、我が党の代表だ。
今日は代表の誕生日。勤務時間中にもかかわらず、白昼堂々のサプライズ宴会が開催されていた。
「あ、あの……せめて瓦版には『お昼休みの出来事』って書かないと、世間の皆さまから怒られます……」
わたしがおそるおそる進言するも、誰も聞いちゃいない。
「代表がケーキを召し上がるのは、我が国の栄養水準を引き上げるための崇高な儀式なのです!ボクは命懸けで代表の胃袋を擁護します!」
カレーの本質🍛が、スプーンを片手に涙ながらに叫んでいる。
「今日はその話ですか?」
ジム総長が、ふわりと洋装のドレスを揺らして現れた。
「アタシ、そのケーキが税金で買われる瞬間、見た!アタシそれ見た!」
(……総長、絶対見てない。さっきまで奥の部屋でいびきをかいていたじゃないですか)
わたしの内なるツッコミは、声にならない。彼女に睨まれれば、即座に屯所からパージ(追放)される恐怖政治が敷かれているのだ。イエスマンになるしか、生き残る道はない。
そこへ、越前福井藩からやってきたパイプユニッシュが、ふんぞり返って入ってきた。
「党勢拡大は間違いないんやざ!メリケンの新大統領・とらんぷ殿とも、拙者のパイプはガッチリ繋がっておるでな!政策で勝負じゃ!」
しかし、彼の自慢するパイプは、ただのヤニで詰まった煙管(キセル)にしか見えない。
「うるさい!静かにしろ!」
突如、ピライが襖を開けて怒鳴り散らし、風のように去っていった。一体何だったの。
その時である。
「今日もまきまき!逆から読んでもまさきまき!」
ダァァン!と屯所の扉が蹴破られ、元党員で、夫の飛脚文(Xポスト)が原因でクビになった「まきまき」が乱入してきた。情緒不安定な彼女の目は、血走っている。
「あんたたち!勤務時間中に浮かれすぎよ、まきまき!だいたいね、総長!あんた30年前、蒸気気動車で痴漢に遭ったとき、ホームで倒れてる無抵抗の男の腹を後から蹴り飛ばした武勇伝を瓦版で自慢してたわね!法治国家として間違ってるわ、まきまきーっ!」
痛烈な暴露に、屯所の空気が凍りつく。
だが、ジム総長は涼しい顔で扇子を広げた。
「こうなること何となく予測してたわ。特には驚かなかったわね。結果としてまきまきの行動で利しているのは反体制派よ」
(論点が完全にすり替わっている……!)
「ウキー!まきまきは迷惑な活動写真屋(YouTuber)だ!勝手に撮影ルールを作るな!デコバカ!」
どこからともなく現れたま猿🐒が、デマばかり喚き散らして、また去っていく。
「もう情緒ぐちゃぐちゃよ!まきまき!」
泣き叫ぶまきまきに対し、ついに代表がキレた。
「SFやで!」
代表が飲みかけの舶来品のガラス瓶(ペットボトル代わり)を、まきまきに向かって全力で投げつける!
「恋すれば何でもない距離やけどな!」
(意味がわからない!)
飛び交う瓶、虚言を吐く総長、カレーを擁護する男、詰まったパイプ。
そして、無抵抗の者を蹴るようなコンプライアンス皆無の惨状。良識ある町民たちが離れていくのも当然だ。
わたしは、ずっとおとなしく生きてきた。臆病で、波風を立てるのが怖かった。
でも、このままじゃ日本が、いや、わたし自身が壊れてしまう!
わたしの中で、何かが音を立てて弾けた。
「いい加減にしろォォォーーッ!!」
わたしの絶叫が、銀座煉瓦街に響き渡る。
「公金でケーキ食うな!嘘をつくな!倒れた男を蹴るな!そして、意味不明な言葉で瓶を投げるなァァ!!」
わたしは手近にあったちゃぶ台を、代表と総長に向かって渾身の力でひっくり返した。
宙を舞うケーキとガラス瓶。
「チ、チ~サが反乱を起こしたで!SFやで!」
「こうなること何となく予測して……ギャアア!」
飛び散る生クリームの中で、わたしは初めて、心の底からスッキリと笑っていた。
ああ、幕末の空は、今日も呆れるほど青い。
組織の崩壊が、これほどまでに甘美な喜劇だとは、誰も予測していなかっただろう。
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