文明開化の煙が東京の空をまだらに染めていた、明治の初め。わたし、チ~サは「にっぽんぽん・あさっての党」の薄暗い屯所(とんしょ)で、湯呑みを拭いていた。今日も今日とて、お偉いさん方の奇想天外な会合が始まるのだ。
「ええか、チ~サ!よう聞いとけ!これが新しい日本の夜明けや!」
部屋の中央で仁王立ちするは、我らが代表。ちょんまげの代わりに胡散臭い山高帽をかぶり、金勘定の算盤(そろばん)だけは常に懐に忍ばせている。
「まず第一に!異国との『たぶんかけふせい』は絶対に成功せん!歴史が証明しとる!ワシの知る限り、成功した国は一つもないんや!」
わたしは思わず「多文化共生、では…?」と呟きかけたが、声にはならなかった。代表の迫力に、いつも言葉を飲み込んでしまう。
「見た!アタシそれ見た!」
すかさず声を上げたのはジム総長。扇子をパタパタさせながら、知ったかぶりの極みみたいな顔で続ける。
「異国の者たちが手を取り合って崖から落ちていくのを、異国の瓦版で見たわ!結果として彼らの行動で利しているのは、崖の下で口を開けていた熊ね!」
…そんな瓦版があるわけないのに。
「その通りじゃ!」
福井訛りの大声が響く。パイプユニッシュ様だ。胸を張り、なぜか詰まったままの煙管(きせる)をふかしながら豪語する。
「拙者が繋いでおる亜米利加(アメリカ)の『とらんぷ』なる大統領からの密書にもそう書かれとる!『多文化共生ダメ、絶対』とな!党勢拡大は間違いない!」
(パイプ、詰まってますよ…)なんて、とても言えない。
「ワシの言う通りやろ!」代表は得意げに鼻を鳴らす。「そもそも亜米利加なんちゅう国は、欧州の人間しかおらんのやからな!ワシは詳しいんや!」
「代表のお言葉こそが歴史の真実です!」
突如、代表の足元からぬっと現れたのは、カレーの本質🍛さん。瞳を潤ませながら、両手で合掌している。
「教科書に書かれている奴隷船だの、清国からの移民だの、そんなものは全部、薩長の捏造なんです!ボクは代表と共に、歴史の嘘と戦います!」
このエクストリームな擁護に代表はご満悦だったが、その時、障子がガラッと開いた。
ウキーッ!
猿が一匹、部屋に飛び込んできた。ま猿🐒くんだ。
「ウキー!亜米利加は猿が建国したんだキーッ!デコバカ!」
そう叫ぶなり、ま猿🐒くんは一目散に駆け去っていった。すべてがデマなのに、勢いだけは真実のようだ。
続いて、顔を真っ赤にしたピライ様が顔を出し、
「うるさい!静かにしろ!」
とだけ怒鳴って、嵐のように消えた。静かになったのは一瞬だけだった。
「だいたいな!」代表の演説は止まらない。「これからは人手不足なんて嘘っぱちになるんや!蒸気とカラクリの時代やで!」
「こうなること何となく予測してたわ。特には驚かなかったわね」とジム総長が腕を組む。
「そうや!」代表は舶来品の硝子瓶(がらすびん)を振り回す。「わが党が開発した究極カラクリ人形が、全部の仕事をやってくれる!その名は『キシンジャーZ』や!」
……昨日まで『河野太郎』って言ってませんでしたっけ?
わたしが混乱していると、屯所の入り口が、今度は悲鳴と共に破壊された。
「きょーおも、まきまき!逆から読んでも、まさきまき!代表!まきまきをクビにするなんて、どういうことですかああああっ!」
まきまきさんだった。先日までここで働いていたのに、旦那様の辻斬り(Xポスト)が原因でクビになったと噂の…。
「なんやと!党の和を乱すやつは許さん!」
代表は叫ぶと、手に持っていた硝子瓶をまきまきさんに向かって投げつけた。
「ええゆうてるんちゃうで!」
硝子瓶は放物線を描き、まきまきさんがひらりとかわしたその先──パイプユニッシュ様の額にクリーンヒットした。カーン!と乾いた音がして、自慢の煙管が真っ二つに折れた。パイプ、物理的にも詰んだ。
「結果として代表の投擲で利しているのは、硝子瓶を作った異国の商人ね」
ジム総長が冷静に分析する横で、カレーの本質🍛さんが涙ながらに叫ぶ。
「違う!これは党の規律を教えるための、代表の愛の鉄槌なんだ!」
お金、嘘、詰まったパイプ、デマ、怒号、情緒不安定、そして暴力。
この混沌の坩堝(るつぼ)の真ん中で、わたしは、拭き終えた湯呑みをカタンと置いた。
そして、生まれて初めて、震える声で言った。
「……あの、代表。皆様のお話、少しだけ、ほんの少しだけ……おかしいような気が、しませんか?」
部屋中の視線が、わたし一人に突き刺さる。空気が凍りついた。
代表は投げつける硝子瓶を探すかのようにあたりを見回し、やがてわたしを見ると、ニヤリと不気味に笑った。
「SFやで」
その一言で、全てがどうでもよくなった。と同時に、何かが、わたしの中で確かに始まった気がした。このポンコツたちの船から降りるのか、それとも舵を取り戻そうとするのか。まだ分からない。でも、わたしはもう、ただ湯呑みを拭いているだけの娘では、ない。
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