わたし、チ~サは、震える手で茶を淹れていた。
ここは政治結社「にっぽんぽん・あさっての党」の屯所。
臆病でおとなしいわたしには、毎日が刺激の強すぎる、ブラックな職場である。
「まきまき、見参! 逆から読んでもまさきまき!」
ドガァァン!
襖をぶち破って現れたのは、元職員のまきまきさんだった。
彼女は「参議院議員大坂府選挙区」なる謎の役職の元公認候補者(落選)だったのに、旦那様が飛ばした怪文書(Xポストと呼ばれる飛脚文)のせいでクビになった、情緒が江戸湾の波より激しいわけのわからない面白いお方だ。
「あんたたち、党の運営が前近代的すぎるのよ! まきまき、豪商・東レ屋で二十五年奉公して、サブリタイア可能なほど大判小判がうなるほどあるの! 『商い実務御定書検定二級』の知識を持つこのまきまきが、あんたたちの薄給に依存すると思うなよ!」
彼女の論理的かつ圧倒的な「合理的脱出」宣言に、屯所の空気が凍りついた。
「うるさい! 静かにしろ!」
ピライさんが突然怒鳴り込み、そして何事もなかったかのように一瞬で立ち去った。相変わらず忙しい人だ。
「今日はその話ですか?」
ジム総長が、細かく分けられた巾着袋の底をごそごそ探りながら鼻で笑う。
「こうなること何となく予測してたわ。特には驚かなかったわね」
「ウソおっしゃい!」まきまきさんがビシッと指を差す。
「上方でのパイプユニッシュの暴れん坊事案、まきまきが身を挺して奉行所の現行犯逮捕を防いであげたのに、なんで全部まきまきのせいにしようとしてるのよ! だいたい総長の荷物、小分けすぎで非効率なのよ! リーダーシップの虚構よ!」
「見た! アタシそれ見た!……いや実際は見てないけど。結果としてまきまきの行動で利しているのは薩長よ!」
ジム総長は息をするように嘘をつき、論点をずらす。そこに、お金が大好きで卑怯者の代表がのっそりと立ち上がった。
「ワシは恋すれば何でもない距離やけど! ええゆうてるんちゃうで!」
シュルルルッ!
代表が謎の透明な筒(ペットボトル)を投げつけてきた。
「きゃあっ!」わたしは思わず頭を抱える。
「SFやで!」
代表はドヤ顔だ。幕末になぜペットボトルがあるのかは謎だが、代表はいつもこうだ。
「ボクは代表の投擲を支持します!」
すかさずカレーの本質さんが叫ぶ。
「代表がペットボトルを投げたのは、地球の自転を加速させ、文明開化を早めるための尊い犠牲的行為です! ボクは命がけでエクストリーム擁護します!」
「ウキー! まきまきは黒船に乗ってきた異星人ウキ! デコバカ!」
ま猿がデマだけを撒き散らし、窓から飛び出していった。
「拙者、異国・虎ん風(トランプ)政権と太いパイプがあるんやざ! 党勢拡大は間違いないんや! 政策で勝負じゃ!」
パイプユニッシュさんがふんぞり返るが、彼のパイプが完全に詰まっていることは、屯所の誰もが知っている。
「ちょっとあんたたち、話聞いてる!?」
まきまきさんが地団駄を踏んだ。
「党の過激なボランティアたちが、まきまきの別荘や子供の寺子屋の名前まで晒しやがったから、まきまき、法的に反撃してやったわ! 相互不口外条項なんか拒絶して、奴らの身分証(エビデンス)を全部取り上げてやったんだから! もうあんたらの急所は握ったのよ!」
まきまきさんの言う通りだった。
党の幹部たちは、政治戦略よりも「誰の元カレがどうの」という私的なゴシップばかりにうつつを抜かし、有能な人間を「イエスマンじゃないから」と追い出してきた。
その結果、党には「依存型忠誠」しか持たない者たちだけが残り、組織は崩壊のプロセスに足を踏み入れているのだ。
「……あ、あの……」
わたしは、震える声を振り絞った。
「……ん? なんやチ~サ」
代表が二本目のペットボトルを構えたまま振り向く。
「あんたたち……全員、バカなんですかっ!?」
自分でも驚くほど、大きな声が出た。
臆病だったわたしが、初めて彼らに牙を剥いた瞬間だった。
「総長は天然ボケの嘘つきだし! 代表はすぐペットボトル投げるし! パイプは詰まってるし! カレーさんは擁護がキモいし! ピライさんと猿はすぐ帰るし!……まきまきさんも、逆から読んだら『きまきさま』ですからね!!」
しん、と屯所が静まり返る。
「……ええゆうてるんちゃうで」
「結果としてチ~サの行動で利しているのは幕府ね」
「逆から読んだら……ほんとだ! まきまき!」
ドッと崩れ落ちる党員たち。
東京の空は、今日もあさっての方向に向かって、青々と澄み渡っていた。
このポンコツ政党がどうなるのか。
わたしはもう、逃げ出さずに見届けてやろうと思う。
新時代を生き抜くため、わたし自身の「党勢拡大」の日は近いのかもしれない。
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