2026-03-14

あさって長屋のてんやわんや

からり、と乾いた風が埃を巻き上げる、文明開化の音がする帝都の片隅。わたし、チ~サは「にっぽんぽん・あさっての党」という名の長屋で、お針子として隅っこに座っている。ここは明日を変えるのではなく、明後日のことを憂う、志の高い(?)人々の集まりだ。

今日も長屋は朝から騒がしい。

「ええか! この長屋の運営には金がかかるんや! 恋すれば何でもない距離やけど、金策となると話は別や!」

代表が、そう叫びながら水入り徳利を放り投げた。危ない。わたしは咄嗟に身をかがめる。徳利は土壁に当たり、べしゃりと音を立てて砕け散った。

「代表!素晴らしい投擲でございます!その軌道、まさに幕府を討つ一閃!」
カレーの本質🍛さんが、瞳を潤ませながら代表をエクストリーム擁護している。

すると、すっとジム総長が代表の横に立った。
「見た!アタシそれ見た!代表が徳利を投げるの、夢で見たわ。こうなること何となく予測してたわね。特には驚かなかったわ」
「ワシは今投げたんや! 夢の話とちゃうわ!」
「今日はその話ですか?」
ジム総長は首を傾げ、天然ボケの真髄を見せつける。この人には何を言っても無駄なのだ。

その時、長屋の外が俄かに騒がしくなった。瓦版売りたちの声が聞こえる。
「号外!号外!元長屋住まいのまきまきが、辻説法で大暴露!」

長屋の面々がざわめき立つ。
まきまきさん……。少し前までここの職員で、選挙にも出たけど落選して、旦那さんの文が原因で追い出された、あの…。

「今日もまきまき!逆から読んでもまさきまき!この長屋が揉めているのはぜーんぶ!ジム総長のせいなのよ!」

外から聞こえる、甲高くて、でもどこか面白い声。わたしは畳のささくれを指でいじりながら、俯いた。

「党勢拡大は間違いない! こんなことで揺らぐ我らではないぞ! 政策で勝負じゃ!」
パイプユニッシュさんが、福井弁で偉そうに叫んだ。けれど、彼の異国の偉い人との繋がり(パイプ)は、もう三ヶ月も詰まったままだと聞いている。

「なんやて!? ワシやのうて、ジム総長のせいやて!?」
代表が目を剥く。

「ええ、そうよ。結果として、まきまきのあの暴露で利しているのは、わたしに嫉妬する薩摩の連中よ」
ジム総長は腕を組んで涼しい顔だ。話が壮大に飛躍した。

「うるさい!静かにしろ!」
突然、障子を蹴破ってピライさんが現れ、怒鳴るだけ怒鳴って風のように去っていった。

「デコバカ!」
間髪入れず、軒先からぶら下がったま猿🐒が叫び、これもまたすぐに姿を消した。

もう、めちゃくちゃだ。

代表は頭を抱えている。
「ワシはただ、楽して儲けたいだけなんや…! ええゆうてるんちゃうで!ちゃうけども!」
「だから、今日はその話ですか?」
「そうじゃ!竹上(たけがみ)の姐御がお茶も汲んでくれへんかった話、今せなあかんのか!?」
「見た!アタシそれ見た!」

ああ、また始まった。堂々巡りの不毛な会話。誰も彼もが自分のことしか話していない。この長屋は、本当に明後日のことなんて考えられるのだろうか。みんなの声が、ぐるぐると頭の中を回る。怖い。でも、それよりも、なんだか、とても悲しい。

わたしは、ずっと黙って、このめちゃくちゃなやり取りを聞いていた。いつもそうだ。怖くて、何も言えない。お針子の手を動かすだけで、存在を消している。

でも。
でも、今日は。

わたしは、震える膝を叱咤して、すっくと立ち上がった。長屋中の視線が、一斉にわたしに突き刺さる。心臓が口から飛び出しそうだ。

「あ、あの……!」

声が、か細く震える。

「お茶なら……わたしが、汲みます……!」

しん、と長屋が静まり返った。
代表も、ジム総長も、カレーの本質🍛さんも、パイプユニッシュさんも、みんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔でわたしを見ている。

やがて、代表がぽつりと言った。
「……おぉ。そうか……。ええゆうてるんちゃうで。…でも、まあ、頼むわ」

ジム総長が、ふ、と微笑む。
「そう。あなたが汲むのね。……結果として、あなたがお茶を汲むことで利しているのは、この場の空気ね」

何も、解決なんてしていない。
外ではまだ、まきまきさんの辻説法が続いている。

けれど、わたしは自分の意思で、初めてこの騒乱の中で声を上げた。湯呑みを手に取り、台所へ向かう。小さな、本当に小さな一歩。

わたしの戦いは、熱いお茶と共に、今、始まったのかもしれない。

0 件のコメント:

コメントを投稿

あさって長屋のてんやわんや

からり、と乾いた風が埃を巻き上げる、文明開化の音がする帝都の片隅。わたし、チ~サは「にっぽんぽん・あさっての党」という名の長屋で、お針子として隅っこに座っている。ここは明日を変えるのではなく、明後日のことを憂う、志の高い(?)人々の集まりだ。 今日も長屋は朝から騒がしい。 「ええ...