2025-07-22

『論破バトル二夜連続!ダルマと俺の燃える感情!』

 

キクタケ視点・コミカルライトノベル

『論破バトル二夜連続!ダルマと俺の燃える感情!』


プロローグ:俺はキクタケ、魂のシャウター

俺の名前はキクタケ。ネットの片隅で日夜、魂のシャウトを響かせる実況系(?)戦士だ。昨日はやられた…飯山あかりの冷徹ロジックに。あの冷たい視線、まるで高級冷蔵庫のドアポケットに入れられた未開封の豆腐みたいに凍えた俺の言葉…。
だが俺は諦めない!なぜなら、この胸には百田師匠直々に目を入れてもらった「ダルマ」が燃えているからだ!

「今日こそ論破する!魂の逆襲第二夜、開幕だあああ!」


ROUND 1:ダルマ降臨!キクタケ式パワーアップ

ゴングが鳴るやいなや、俺は配信机にドンと置いた。「見ろよコレ!百田さんに入魂してもらったダルマやで!まつ毛もキュートや!」
…あれ?コメント欄がざわついている。
「それ、何の論破関係あるの?」
くっ…細かいことを気にするな!これは俺の戦闘力を上げる儀式だ。スーパーサイヤ人が金髪になるようなもんだ。


ROUND 2:伝説の「菊武式・票割りイリュージョン」

俺は胸を張った。「選挙の票?任せろ!政党名の票180万、これは“迷い票”や!だから半分ずつ百田&有本ペアで山分けや!」
…沈黙。コメント欄には「え、算数…?」とか「錬金術?」とか書かれている。
何が悪い!イメージだ、イメージ!数字なんか雰囲気で動かすのがキクタケ流や!


ROUND 3:最終奥義「部外者黙れビーム」

「おい飯山!お前部外者や!文句あるなら政党作れや!嫌なら出ていけええ!」
…あれ?さらにコメント欄が荒れてきた。
「国政政党は国民のものじゃ…」
くそっ、論理はめんどくさい!魂が大事なんだ魂が!


第一夜の悪夢:顔芸ラッシュの敗北

ここで思い出す。昨日の俺は「顔が憎い!」「泡立ってる!」と顔芸攻撃を連打したが、飯山の鉄壁ガードに1ダメージも与えられなかった。むしろ自分が疲れて泡吹きそうになった。


クライマックス:ウロボロスのブーメラン

「論破を終わらせてやる!」と叫んだ俺の最後の一撃。
結果は――
ブーメランが頭に直撃。
視界がスローモーションに…。「あ、これKOだわ…」


エピローグ:それでも俺は叫ぶ

TKO負け?知るか!配信ボタンはまだ光ってる。
「次は絶対勝つからな!飯山ァァァァ!」
――ダルマの目が、なぜか涙で滲んで見えた。


次回予告
キクタケ、ついに論理の魔術師に弟子入り!?
飯山あかり、AI解説とコラボ!?
「論破バトル第三夜~友情とメンタル回復の逆転劇~」でお会いしよう!

2025-07-21

キクタケ視点ライトノベル:ネット論破バトル開幕ッ!

 

キクタケ視点ライトノベル:ネット論破バトル開幕ッ!

※本作はフィクションです。実在の人物・団体・配信・政党等との関係は「あっ……似てる?」程度のパロディ的・風刺的引用であり、事実主張ではありません。登場人物はすべてネット霊界に棲むアバター生命体だと思ってお楽しみください。


プロローグ:サムネが鳴らす開戦ゴング

サムネを見た瞬間、俺は悟った――もう後戻りはできねぇ

画面中央で俺(キクタケ)の口が「おおおおお!」と開き、サイドには赤文字で【今日の論破:飯山あかり戦】、さらに蛍光イエローで【発狂?】【私信公開!?】【おまわりさんコイツです】の三連コンボ。

ああ、やっちまったな過去の俺。編集時テンションMAXだったんだろうけど、未来の俺(=今の俺)が片付ける羽目になってるからな!

そんな悔恨の情を反芻していると、配信スタジオ(=六畳ワンルーム)に設置したAI実況モジュールがピコンと点灯した。

AI実況(ジッキョ):「キクタケ選手、サムネイル確認!現在の倫理フラグ:黄色点灯。名誉毀損リスク:上昇中!」

AI解説(カイセツ):「視聴者のクリック率は高まるが、訴訟率も比例して跳ね上がる傾向。開戦準備を推奨。」

……よし、もう行くしかねぇ。


登場人物(ネット版)

呼称 キャラ属性 必殺技 備考
キクタケ(俺) 感情火山系ストリーマー シャウト→拡散 冷静さの残機ゼロ。
飯山あかり 論理の女王/氷属性 命中率100%ツッコミ ブーメラン返しからの逆転劇が得意。
AI実況(ジッキョ) ハイテンション実況AI リアルタイム炎上指数速報 語尾が煽り気味。
AI解説(カイセツ) 法務・ロジック特化AI 判例引用アッパー 冷静。たまに皮肉。
コメ欄戦士たち 世界最強の野次馬合戦 草・w・スタンプ ときどき事実を突きつける。

Chapter 1 マイクチェック前口上地獄

開票特番のリハ中に俺は言った。「昨日の飯山、気持ち悪すぎたから開票前に論破しておくわ!」

言った瞬間ジッキョが反応する。

ジッキョ:「先制口撃入りましたァ!煽り度+20!訴訟ゲージわずかに上昇!」

カイセツ:「主観評価のみでの人格攻撃はリスク高。論点提示を推奨。」

カイセツ、黙れ。テンション下がるだろ。

俺は配信開始ボタンを叩いた。チャット欄が光速で流れ、いつもの常連がスタンプ攻撃を開始。草草草草草。

画面分割で飯山の過去配信サムネを並べ、俺の顔を右下にピクチャインピクチャ。戦闘BGMオン。


Chapter 2 ROUND 1:顔芸ラッシュは論点に届かない

俺:「見ろこの顔!憎しみゲージMAX!」「ひどい!」「この48,000円ブラウス!庶民への挑発!」

チャット:「値段調べたのお前だろ」「サイズ違いで草」

ジッキョ:「キクタケ選手、怒涛の顔芸コンボ!視聴者盛り上がり指数+35!」

カイセツ:「論点命中率 0%。ダメージ判定なし。」

え、ノーダメ?ウソだろ。俺の『顔芸ラッシュ』が効かないだと……。

リプレイを見ると、確かに全部“見た目”批判。内容に触れてない。俺の拳、空振り。

飯山側チャット切り抜き勢が逆襲してくる。

切り抜き職人:『内容で返せない男 vs 論理の女王』で動画出しますね!

はい出た。二次炎上の予感。


Chapter 3 ROUND 2:下着チラ見せイリュージョン(不発)

ここで俺は逆転ムーブを仕掛ける。「まさきの配信、下着チラ見せ疑惑!……って言うけどさ!お前(=飯山)も似たような服あったよな!?」

息を呑むコメ欄。AIが同時解析を開始。

カイセツ:「映像資料照合中……下着該当フレーム:検出なし。比較対象事実:不足。」

ジッキョ:「イリュージョン失敗ィィィ!観客『根拠どこ?』コール発生!」

チャット欄:証拠出してw 幻覚配信かな? ソースは脳内

俺(心の声):ヤバい。データ弱い。勢いで言った。撤退路は?

飯山側クリップがまた増える未来が見えた。俺は急にテーマを変え、「いや問題は服装じゃなくて、公人としての資質な?」と切り替える。だがこれは……。

カイセツ:「論点すり替え検知。視聴者混乱度+40。」


Chapter 4 ROUND 3:ウロボロス・ブーメラン自爆

百田氏の『クズ女』発言を飯山が批判→俺が「いやいや誹謗中傷してるの飯山だから!」と吠える。

ジッキョ:「強烈カウンター!会場どよめき!」

カイセツ:「自己参照ロジック形成中……計算結果:自爆の可能性 82%。」

俺:「問題はそこじゃない!飯山が~」

コメ欄:「今、飯山が言ってる“そこじゃない”って言葉を君が“そこじゃない”って言ってる図」

別の視聴者:「※鏡合わせバトル開始」

さらに別:「これウロボロス案件」

AIがエフェクトを重ねる。画面に巨大な蛇が輪になり、俺のセリフが弧を描いて俺の頭に戻ってくる。

ジッキョ:「ブーメラン直撃ィィィ!脳天クラッシュ!」

カイセツ:「相手の主張構造を理解せず否定→相手の主張の正しさを側面証明。これは高度な自爆。」

俺(心声):……負けた?


Chapter 5 インターバル:訴状というリングサイド椅子

配信を終えた数日後、ポストに不在票。差出人:法律事務所。

俺「終わった。」

開封前にとりあえず配信でネタにする俺。学習しない俺。

ジッキョ:「法的イベント発生!視聴者接続+120!」

カイセツ:「訴状受領後の継続配信は損害賠償増額ファクター。停止検討を推奨。」

俺:「止めるわけないだろぉぉぉ!」

コメント: 無理ゲー選択 判決待ち配信シリーズ期待


Chapter 6 緊急配信:訴訟前仮処分カウントダウン

その夜の生放送。

俺:「まだ裁判始まってねぇんだぞ!言論の自由だろ!?」

カイセツ:「仮処分は本訴前でも申立可能。削除・差止・間接強制金のリスク。」

視聴者:「草(終わったな)」「判例知れ」

俺は必死でネタに変換する。

俺:「はいはい、もし止められたら“沈黙するキクタケ ASMR”チャンネル立ち上げます~」

チャット爆笑。数字は伸びる。俺の胃は縮む。


Chapter 7 ダメージ判定表(AI集計)

ラウンド キクタケ攻撃種別 命中率 反動ダメージ 法的リスクメモ
1 顔芸ラッシュ 0% 5 内容非攻撃で効果薄。人格攻撃フラグ。
2 下着イリュージョン 0% 20 根拠不足→信用低下。
3 ブーメラン -50%(自爆) 80 相手論理補強化。
EX 訴状後継続配信 100 損害賠償増額・仮処分警戒。

Chapter 8 AI補講:論破の基本(キクタケ強化合宿メモ)

  1. 主張と人物を分けろ:顔がどうとか服がどうとか言っても論点は倒せない。

  2. 証拠を用意してから叫べ:ソース不在で煽ると、後から全部こっちが痛い。

  3. 相手の論理構造を図に描け:理解できないまま否定→ブーメラン。

  4. 訴状=ゲーム開始通知:"Game Over"じゃないけど残機減る。

  5. 仮処分は必殺技:本戦前に行動を封じられる。気をつけろ。

俺:「宿題多すぎるんだが?」


Chapter 9 リマッチ宣言(たぶん懲りてない)

俺はカメラに向かって宣言した。

「次は“内容で勝負するキクタケ”でリマッチだ!顔芸は封印……半分ぐらい封印!」

ジッキョ:「宣言きたーー!視聴者期待値+60!」

カイセツ:「達成率予測 41%。」

チャット:「半分てw」「まず根拠よこせ」「AI家庭教師付けよう」

俺は親指を立てた。配信終了ボタンを押す指が震えていたのは、誰にもバレてない。はず。


エピローグ:サムネは戦場、言葉は武器、証拠は防具

配信ってやつはリングだ。サムネは挑発、タイトルは挑戦状。入場するなら覚悟を決めろ。俺はまだ学びの途中だが、一つだけわかったことがある。

論破は相手を殴る技じゃない。自分が素手で殴りに行って指を折らないための技だ。

次の開票特番までに、俺は論理グローブを買う。セールでいいから。


あとがき

ここまで読んでくれた君へ。ありがとう!もし面白かったらコメントで教えてくれ。あと、俺に法律入門おすすめテキストを貼っといてくれ。本気で必要になってきた。

次巻予告:『仮処分カウントゼロ秒前!AI家庭教師と地獄の準備合宿』

お楽しみに!

2025-07-17

おきよ版モンゴル人の物語・第2巻

おきよ版モンゴル人の物語・第2巻

裁判沙汰もモンゴル相撲で解決!

空はあくまで青く、大地はどこまでも緑。ウランバートルの新興ジャーナリスト、サランゲレル(二十八歳、信条はペンは剣よりも強し)が、自身のウェブメディアに投下した記事は、さながら無風の大草原に放たれた一匹の狼であった。

『モンゴル保守党、大草原の多様性を見過ごす勿れ!~置き去りにされる性的少数者の声~』

この記事が、モンゴル保守党党首、バトムンフ(五十二歳、趣味は筋肉と伝統)の逆鱗という逆鱗に触れるまで、そう時間はかからなかった。テレビの臨時ニュースで、党首は巨大なチンギス・ハーンの肖像画を背に、鋼鉄の拳を振り上げて吠えた。
「この記事は! 我が党への冒涜であり! 我らが偉大なるモンゴルの伝統への挑戦である! 断じて許さん!」
その怒りはゴビ砂漠の熱風の如く、サランゲレルの元へ裁判所からの召喚状という形で届いたのである。名誉毀損。実に現代的な響きだ。

法廷は、石造りの重々しい建物であった。しかし、中に一歩足を踏み入れたサランゲレルは、我が目を疑った。傍聴席はデール(モンゴルの民族衣装)を着た人々で埋め尽くされ、皆どこか浮き足立っている。まるで、ナーダム(モンゴルの国民的祭典)の開幕を待つ観客のようだ。

やがて、裁判官ガンボルドが入廷する。法服こそ着ているが、その脇に抱えられているのは六法全書ではなく、どう見ても『モンゴル相撲決まり手大鑑・永久保存版』であった。
ガンボルド裁判官は、咳払いを一つすると、高らかに宣言した。
「静粛に! これより、原告バトムンフ、被告サランゲレルによる名誉毀損訴訟を開廷する!……が、しかし! 我らが祖先の魂と、この大地の声に耳を澄ますならば、法廷での舌戦など仔羊の戯れに等しい!」
傍聴席から「おお!」とどよめきが起こる。
「よって本件は、古式に則り、神聖なるブフ(モンゴル相撲)にて、その正邪を決するものとする!」
「決まったァァァ!」と、傍聴席から野太い声が飛んだ。拍手喝采。指笛の嵐。
サランゲレルは、開いた口が塞がらなかった。
「ちょ、ちょっと待ってください裁判官! ここは法治国家のはずです! 私はジャーナリストで、相撲取りでは……」
「若者よ」ガンボルドは諭すように言った。「ペンが剣より強いと言うのなら、そのペンを握る腕がどれほどのものか、示してみせよ。それがモンゴル人の作法というものだ」
有無を言わさぬとは、このことか。サランゲレルは、自分が近代法ではなく、筋肉と伝統が支配する巨大なビッグウェーブのど真ん中にいることを、ようやく理解したのだった。

決戦は一週間後、裁判所の中庭に特設された土俵にて。
サランゲレルは途方に暮れた。相手は、党のポスターで馬と並んで力こぶを披露しているような男である。勝ち目など、地平線の彼方にも見えやしない。
「それがモンゴルってもんさ」友人たちは馬乳酒を呷りながら笑うだけだ。
そんな彼女の前に現れたのは、近所のゲル地区で「生ける伝説」と噂される元横綱、ゴンボドルジ爺さんであった。
「お嬢ちゃん、ペンで国を動かそうってんなら、まずは自分の身体を動かさんと話にならんわい」
ゴンボドルジの特訓は、常軌を逸していた。羊の群れを全力で追いかけさせられ、巨大なゲルを一人で建てさせられ、挙句の果てには「精神を鍛える」と称して、満点の星空の下でホーミー(喉歌)を延々と聞かされるのだ。
「こ、これ、本当に相撲の役に立つんですか?」
息も絶え絶えのサランゲレルに、爺さんは笑った。
「相撲は力じゃない。魂の対話じゃ。相手の重心、呼吸、そして心の揺らぎを読むんじゃよ」

そして決戦の日。中庭はまさにお祭り騒ぎだ。ホルホグ(羊肉の蒸し焼き)の屋台からは、むせ返るような匂いが立ちこめている。
挑戦者、バトムンフ党首が姿を現した。鷲の刺繍が入った立派なゾドグ(ベスト)とシューダグ(パンツ)を身に着け、その肉体は磨き上げられた岩のようだ。鷹の舞を勇壮に踊り、観衆を沸かせる。
対するサランゲレルは、ゴンボドルジ爺さんから借りたブカブカのゾドグ姿で、心細げに土俵に上がった。まるで、巨大な熊の前に立たされた子ウサギである。

「ドゥーラフ!(始め!)」
ガンボルド裁判官の号令が響く。
バトムンフは、まるで父親が娘をあやすかのように、余裕の構えだ。サランゲレルは特訓を思い出す。羊を追って鍛えた俊敏さで、巨体の周りをちょこまかと動き回る。バトムンフは苛立ち、大振りの技を繰り出すが、サランゲレルはひらりひらりとかわしていく。
「小賢しい!」
業を煮やしたバトムンフが、サランゲレルの腕を掴んだ。万事休すか。
その時、サランゲレルは最後の賭けに出た。鍛え抜いた喉で、ありったけの声を張り上げたのだ。
「党首! あなたの記事への反論は読みました! でも、そこに当事者の声は一つもありませんでした! あなたが守りたい伝統とは、誰かの声を無視して成り立つものなんですか!」
それは、ペンに代わる魂の叫びだった。
その一言は、バトムンフの筋肉の鎧を貫き、その心を一瞬、揺らした。彼が「む……」と怯んだ、その刹那。
サランゲレルは、ゴンボドルジ爺さんに叩き込まれたゲルの建て方を思い出した。中心の柱を立てる時の、あの腰の入れ方だ!
彼女は全体重を乗せ、バトムンフの足を取った。巨体は、スローモーションのように傾いでいく。観客席の最前列で応援していた妻と目が合ったバトムンフの顔に、「あ、やべ」という表情が浮かんだ。

ドォォォン!
地響きと共に、モンゴル保守党党首は、大空を仰いだ。
静寂。そして、爆発するような大歓声。

決まり手は、「正論突き落とし」。
倒されたバトムンフは、しかし、不思議と晴れやかな顔をしていた。ゆっくりと起き上がると、サランゲレルに歩み寄った。
「見事だ、お嬢さん。お前のペンは、その細腕よりもずっと重かったらしい」
サランゲレルは、モンゴルの作法に従い、敗者のゾドグの紐を解き、その腕の下を敬意をもってくぐった。
ガンボルド裁判官が、高らかに判決を言い渡す。
「勝者、サランゲレル! よって、原告の訴えは棄却! 被告の記事は……真実! 以上、閉廷!」

その夜の宴会は、裁判所の庭でそのまま開かれた。バトムンフは、サランゲレルの隣に座ると、大きな肉の塊を差し出しながら言った。
「うむ……確かに、我が党には多様性への配慮が足りなかったのかもしれん。善処しよう。だが、次にもし記事を書くなら、手加減はせんぞ。相撲も、議論もな!」
二人は馬乳酒の盃を、高々と掲げた。

かくして、ウランバートルの平和は、ペンと相撲によって守られた。サランゲレルは思った。ペンは強い。でも、たまには身体を張るのも悪くない。乗るしかないのだ、このビッグウェーブに!

――さて、次なる法廷闘争は、隣家のヤギが我が家の洗濯物を食べた件である。もちろん、これも相撲で決着がつけられるに違いない。モンゴルの日常は、今日も今日とて、たくましく続いていく。

2025-07-15

光のほうへ

 

■プロローグ 夢のなかの名前

ときどき、夢を見る。
名前のない夢。
顔も、輪郭も、時間さえも曖昧で、ただひとつだけ──
遠くで私を呼ぶ声だけが、くり返し響いている。

けれど、その声が届く直前で、私はいつも目を覚ます。
まるで、どこかにいる「もう会えない誰か」を、夢のなかでも見失うように。

目が覚めたあとの朝は、きまって光が薄く感じる。
部屋のカーテン越しに差し込む陽の光も、どこか白々しく、熱を持たない。

私のなかには、ずっと昔から一つの欠けた場所があって、
そこには名前を呼ばなかった記憶が、静かに横たわっている。

会えなかった人のことを、
声にできなかった想いのことを、
私は今日もまた、黙ったまま、生きている。


■第一章 静かな子

私は、小さなころから静かな子だった。

赤ん坊の頃の私は、あまり泣かなかったらしい。
母は「育てやすかったわよ」と笑って言うけれど、それは「感情が表に出ない子だった」とも言える。
私自身、怒ったり、泣いたり、誰かを困らせたりした記憶があまりない。
かわりに、ずっとぼんやりと、風や天井や遠くの光を見つめていたように思う。

幼稚園では、砂場の端っこで一人遊びをしていた。
誰かが声をかけてくれても、どう返したらいいのかわからなかった。
笑えばいいのか、手を振ればいいのか。
どれも正解のようで、どれも嘘のようだった。

「なぎさちゃんって、おとなしいね」
「なんか、ちょっとへんな子じゃない?」

そんな声が耳に入るたび、私は透明になっていくような気がした。
空気のように、誰にも気づかれないままでいられたら、それは少しだけ楽だった。

小学校に上がってからも、私は相変わらず「静かな子」だった。
黒板の文字を写すのは好きだったけど、グループ活動や音読の時間は苦手だった。
自分の声が、教室に浮いてしまうような気がしてならなかった。

ひとりでいる時間が好きだった。
けれど、孤独が好きだったわけじゃない。
誰かと一緒にいたいと思ったことだって、何度もある。
だけど、誰かといると疲れてしまうのだ。
息を合わせて、言葉を探して、微笑んで──
そのすべてが、私には少しだけ重かった。

母に連れられて、小児科の先生に相談したこともあった。
先生は「気質の問題でしょう」と言って、少し笑った。

その言葉が、私を決定づけたような気がする。
──気質。つまり、これは私の「つくり」なのだと。

そうやって私は、静かな子として、生きることを選んだ。
選んだというより、ただ、そう在るしかなかったのかもしれない。

でも──
そんな私のなかに、一度だけ光が射しこんだことがある。
たったひと夏、ほんのわずかに、世界が色づいた瞬間。

それが、あの山の家で出会った彼だった。

ハマス

  前史と土壌の形成 パレスチナでイスラム主義が社会に根を張るプロセスは、1967年以降の占領下で行政・福祉の空白を民間宗教ネットワークが穴埋めしたことに端を発する。ガザではモスク、学校、診療、奨学、孤児支援といった“ダアワ(勧告・福祉)”活動が、宗教的信頼と組織的接着剤を育て...