2025-11-17

あさっての党と残念な徳川



【日本昔話】 『あさっての党と残念な徳川』

文明開化の音がする、ここ明治初期の東京。わたしたち「にっぽんぽん・あさっての党」の根城である薄汚れた長屋の一室は、今日も今日とて喧騒に包まれていた。

「ええか、チ~サ。ワシの書いた『日本国紀』は、歴史の真実をえぐる、まさにSFやで」

畳に寝転がりながら、代表が鼻をほじりつつ言う。その手元には、例のご著書。なんでも、元将軍である徳川慶喜公の記述をめぐって、ご当主から丁寧ながらも「残念」とのお手紙が届いたらしい。

わたしは震える手でお茶をすすりながら、内心でつぶやく。(お手紙の内容、どう考えてもSFじゃなくて史実の話だと思うんだけどな……)

代表は、徳川の末裔からのお手紙を読み上げた。
「『徳川慶喜は保身を第一にし、決断力に欠けた男』……この記述は残念です、か。ふん、恋すれば何でもない距離やけど、歴史の真実っちゅうのは時に残酷なもんや」

いや、距離関係ないですよね?

そこへ、すっと襖を開けてジム総長が入ってきた。
「あら、今日はその話ですか? わたし、こうなること何となく予測してたわ。特には驚かなかったわね」

ジム総長は、さも全てお見通しだったかのように腕を組む。

代表がすかさず食いついた。
「なんやて? ジム総長、お前も読んでたんかワシの本を!」
「見た! アタシそれ見た! そのお手紙が来るのを夢で見たのよ!」

(実際は見てないな、この人……)
わたしはもう一度お茶をすする。胃が痛い。

すると今度は、いつも偉そうなパイプユニッシュさんが、どかどかと部屋に入ってきた。
「代表! 徳川の件、聞きましたぞ! こんなことで我々の党勢拡大が止まると思うなよ! 政策で勝負じゃ!」

福井訛りの大声が、わたしの鼓膜を揺らす。
(いや、政策、関係ないですよね? それにあなたのトランプ政権とのパイプ、もう詰まってるって噂ですよ……)

代表はガバッと起き上がると、パイプユニッシュさんを睨みつけた。
「せや! 些細なことで騒いどるだけや! ワシは歴史家や学芸員と話すつもりはない! ええゆうてるんちゃうで!」

そう言って、代表は飲みかけのペットボトルを壁に向かって投げつけた。ゴツン、と鈍い音が響く。

その瞬間、わたしの背後からぬっと現れた人影が叫んだ。
「その通りです代表! 代表のご著書の一文一文は、もはやカレーの本質そのもの! ボクは命に代えても、その真実をお守りします! あの徳川の末裔こそ、歴史を何もわかっていない!」

カレーの本質🍛さんが、目を血走らせて代表をエクストリーム擁護している。彼の理論では、世界はすべてカレーで説明がつくらしい。

わたしがその熱量に若干引いていると、勢いよく襖がスパーン!と開いた。

「うるさい! 静かにしろ!」

ピライさんが顔を真っ赤にして怒鳴りつけたかと思うと、一瞬で姿を消した。嵐のような人だ。

続いて、天井から猿が降ってきた。
「ウキー! デコバカ!」

ま猿🐒はそう叫ぶなり、ピライさんを追いかけるように去っていった。(あの猿、発言は全部デマなんだった……)

部屋には、投げられたペットボトルと、気まずい沈黙、そしてカレーの匂いだけが残った。

ジム総長がぽつりと言う。
「結果として、この騒動で利しているのは、幕府の残党ね」

(いや、誰も利してないですよ……)

代表は、また畳に寝転がって大あくびをした。
「あーあ。決断力に欠けた男っちゅうのは、的を射とるやろ。ワシやったら、もっと上手いことやるわ」

わたしは、きゅっと湯呑を握りしめた。
この人たち、本当に国を良くする気があるのだろうか。代表の言う「決断力」とは、ただペットボトルを投げる勇気のことではないだろうか。

幕末の動乱も、この部屋の混沌に比べれば、きっと些細なことなのだろう。
わたしは、このめちゃくちゃな党で、明日も生きていけるだろうか。

ふと、窓の外を見る。夕焼けが、まるで燃える江戸城のように見えた。
(……でも、わたしが決断しなきゃいけない時も、いつか来るのかもしれない)

そんなことを考えながら、わたしはそっと、新しいお茶を淹れ始めたのだった。このカオスな日常に、ささやかな抵抗をするために。




わたしがお茶を淹れ直した、まさにその時だった。
長屋の入り口が、今まで聞いたことのないような力で、ドンドン!と叩かれた。

「開けい! 朝敵、『にっぽんぽん・あさっての党』! 徳川家並びに大政奉還有志一同からの最後通告である!」

ひっ、と息をのむ。わたしが震えながら戸を少し開けると、そこには裃(かみしも)姿の武士たちがずらりと並んでいた。その手には、物々しい巻物が握られている。

「なんやて!」
代表が慌てて飛び起きた。ジム総長は「あら、今日はその話ですか?」とすっとぼけているが、顔は真っ青だ。

巻物を受け取ったパイプユニッシュさんが、震える声で読み上げる。
「えー…『貴殿の著書『日本国紀』における、徳川慶喜公への愚弄は断じて許しがたい。よって、当該書物の発禁処分、並びに代表者による江戸城跡での公開土下座を要求する』…とありまする!」

「ど、土下座ぁ!?」
代表が素っ頓狂な声を上げた。
「アホか! ワシが土下座なんかできるかい! 恋すれば何でもない距離やけど、プライドは曲げられんのや! これはSFやで!」

「だから政策で勝負じゃとあれほど…!」パイプユニッシュさんが頭を抱える。
「結果としてこの土下座で利しているのは、薩摩藩ね」ジム総長が真顔で言う。
「代表の土下座! それはつまり究極のカレー! ボクが身代わりに!」カレーの本質🍛さんが服を脱ぎ始めた。

「うるさい! 静かにしろ!」「デコバカ!」
ピライさんとま猿🐒が怒鳴り込んできて、そして去っていく。

もう、めちゃくちゃだった。党の存続が、代表の未来が、今まさに崖っぷちに立たされている。このままでは、わたしたちは本当に「あさって」を迎えることすらできないかもしれない。

みんながわめき散らす中、わたしは一つのことだけを考えていた。
(代表は、どうしようもない人だ。卑怯だし、お金好きだし、すぐにペットボトルを投げる。でも――)

脳裏に浮かぶのは、長屋の隅でボロボロの経済書を読みふけっていた代表の後ろ姿。新しい政策(と称する思いつき)を、目を輝かせて語っていた時の顔。
(この国を何とかしたいという気持ちだけは、きっと、ほんの少しだけ、本物なんだ)

わたしは、すっくと立ち上がった。震えが、いつの間にか止まっていることに気づく。

「わたしが、行きます」

部屋中の視線が、わたしに突き刺さる。
代表が、目を丸くしてわたしを見た。
「チ~サ…? お前、何言うとるんや」

「徳川のご当主さまに、わたしがお会いして、お話ししてきます」

「無茶だ!」「やめとけ!」「こうなること予測してたわ!」
仲間たちが口々に叫ぶ。だが、わたしの決意は揺らがなかった。

「これは、わたしが決めたことです」

初めて、自分の意志で、はっきりとそう言った。
代表が、何かを言いかけて、やめた。ただ黙って、わたしを見ている。

わたしは一人、徳川家の屋敷へと向かった。
広大な屋敷の、静まり返った一室。目の前には、穏やかながらも、芯の強さを感じさせる徳川慶喜家ご当主さまが座っていた。

わたしは、深々と頭を下げた。でも、土下座はしなかった。

「この度は、我々の代表が、大変なご無礼をいたしました。申し訳ございません」

ご当主さまは何も言わない。わたしは、顔を上げて、まっすぐにその目を見て続けた。

「代表は、お金が好きで、口が悪くて、すぐに開き直る、本当にどうしようもない人です。ご著書の内容も、きっと間違いだらけなのでしょう。ですが…」

言葉が詰まる。でも、ここで引くわけにはいかない。

「ですが、あの人なりに、この国の未来を憂いている気持ちは、本当なのだと、わたしは…わたしだけは、信じたいのです。歴史を学ぶということは、過去に生きた人々の、決断の重みや、心の痛みを知ることなのだと、今回の一件でわたしは学びました。その一番大切なことを、わたしたちは見失っていました」

涙が、ぽろぽろとこぼれ落ちる。

「どうか…どうか、代表にもう一度、学ぶ機会をいただけないでしょうか。わたしが、隣にいます。わたしが、一緒に、何度でも歴史を学び直します。だから…!」

わたしは、そこまで言うと、もう一度深く頭を下げた。
長い、長い沈黙が流れる。

やがて、ご当主さまが、静かに口を開いた。
「……残念に思う気持ちは、今も変わりません。ですが」

わたしが顔を上げると、ご当主さまは、ふっと優しい笑みを浮かべていた。
「あなたのような方がいる党ならば、その未来は『あさって』ではなく、『明日』に変わるのかもしれませんな。…お顔を上げなさい」

その言葉が、どれほど嬉しかったか。

わたしが屋敷を出ると、門の前の物陰で、見慣れた顔がわらわらと覗いていた。みんな、こっそり後をつけてきていたのだ。

代表が、気まずそうに、わたしのそばへやってきた。
そして、ぼそりと、でも確かに聞こえる声で言った。

「……おおきに、チ~サ」

その目尻が、少しだけ赤くなっているように見えたのは、きっと夕日のせいだ。

「アタシ、こうなること何となく予測してたわ…」ジム総長が、袖で目元を拭っている。
「これぞ、政策の勝利じゃあ…!」パイプユニッシュさんが、天を仰いで号泣している。
「うっ…これこそが、本当のカレーの本質だ…!」カレーの本質🍛さんが、大地にひれ伏している。

いつものハチャメチャな光景なのに、なぜか、とても温かく感じた。

翌日。わたしたちの長屋には、古今東西の歴史書が山のように積まれていた。
「なんでワシがこんなもん読まなあかんのや…」
代表はぶつぶつ文句を言いながらも、わたしの隣に座って、真剣な顔でページをめくっている。

わたしたち「にっぽんぽん・あさっての党」の明日は、まだ遠い。
でも、臆病だったわたしが、ほんの少しだけ踏み出した一歩。それが、このどうしようもない党の、新しい夜明けになるのかもしれない。

わたしは、そっと新しいお茶を淹れながら、そんなことを思ったのだった。


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